第810号 戦略なき「増税」路線
政府・与党は、来年度の税制改正に向けて、会社員など給与所得者の所得税を計算する際に、収入の一定額を経費とみなして課税対象から差し引く給与所得控除を、高所得者を中心に縮小する案の検討に入ったと報じられています。
◆高所得者に有利な所得税
所得税の基本は、所得の高さに応じて税を負担することで、こういった税を「累進課税」と呼びます。
現状では、年金などの社会保険料を給与から支払った場合、その分を差し引いた額をもとに、所得税が計算されます。
例えば、給与が30万円の方が3万円の社会保険料を払った場合、3万円分については控除の対象となり、30万-3万=27万円に所得税がかかることになります。
つまり、社会保険料を多く支払っている高所得層は控除の額も大きくなり、所得が少なく、納める社会保険料の額も少ない人に対する控除額は小さくなるのです。
このように社会保険料の控除も視野に入れると、高所得層が事実上「優遇」されているのが現在の所得税と言えます。
◆「控除の見直し」は行うべき
私は以前から、消費税を5%に引き下げ、その「代替財源として」所得税の控除のあり方を見直すべきだと主張してきました。
細かな話は私のホームページの「2017年10月8日 馬淵澄夫「消費税引き下げの検討」」をご覧いただきたいのですが、社会保険料に対する控除を見直した上で、株取引などで得た所得や、脱法的に税逃れを行う企業への課税を強化すれば、消費税3%分は十分に賄えるという確証を持っています。
◆控除見直しは消費減税とセットで
したがって「所得税控除の見直し」について政府・与党が検討を進めるのであればそれ自体は賛成です。しかし、問題はその「増税」路線の先にある「戦略」の有無です。
政府・与党案と私が主張してきた案との最大の違いは、「経済対策としての消費税減税を同時に行うかどうか」ということです。
政府・与党は消費税を10%に上げた上での所得税控除の見直し、つまり、全納税者を対象とした「基礎控除」を同時に見直すことで、企業に属さず働く個人や、所得が低い層の税負担を軽くする方向で検討しているとされていますが、これが「経済対策」として、本当に効果があるのか検討された形跡は見あたりません。
消費が落ち込み続けている経済状況のもと、国民の暮らしを守るという最も大切な目標を実現するためには、所得の低い層に影響の強い消費税を引き下げる代わりに、高所得層が恩恵を受けている控除を見直し、個人消費=景気・経済の回復と、格差是正とを同時に行うべきというのが私の主張です。
税と経済は密接に関係しているからこそ、「こちらを増やしてあちらを減らす」的な帳尻合わせの見直しではなく、「戦略的な」見直し論議が行われなくてはならないと考えます。(了)
森ちゃん日記「新たな1ページ」
この時期、奈良では、11月13日に17日間の期間を終えて閉幕した、第69回正倉院展が秋の風物詩の一つではないでしょうか。今年は昨年を上回る入場者数で、近年の外国人観光客の増加もあって13年連続で20万人を超える来場者が国立博物館を訪れました。今年は日本で「国宝」という言葉が誕生して120周年の節目にあたり、重要文化財の中でも特に高い価値を持つ「国宝」の数々が世界へ向け発信されました。
奈良時代には重要な物品を納める「正倉」と呼ばれる建物が、官庁や大寺に設けられ、この正倉が集まる一画を「正倉院」と呼び、当時は各所に置かれていたそうです。
しかし、長い歳月とともにその多くが消滅し、今日まで残っているのは旧東大寺正倉院内の正倉のみで、約9000件の宝物が、毎年多くの観光客を魅了しています。
15日、富雄の南にある丸山住宅と富雄川を挟んだ丘陵地帯に位置する4世紀後半の富雄丸山古墳が、直径110メートル前後の円墳だとわかり、その大きさが国内最大となることが判明しました。直径100メートルにもなる大型の円墳が近畿地方で見つかったのは初めてで、被葬者はかつてこの地方を統治したヤマト王権と関係が深い有力豪族ではないかと言われています。この富雄の地に言い伝えとして伝わる伝説かと、地元の方の間では噂となっています。
かつて、この古墳から当時の小刀や斧などを模した石製品が出土し、国の重要文化財に指定されており、これからどのような宝物が誕生するのか、奈良の新たな歴史の1ページとなる世紀の大発見を期待しながら、今後の発掘調査を見守りたいと思います。