第640号 法人減税の目的は何か 

2014年5月24日 (土) ─

 政府では、来月の成長戦略改定に向けた攻防が本格化しています。焦点となっているのが法人実効税率の引き下げです。

◆バラ色とは限らない法人減税 
 経済のグローバル化の中で、日本が立地競争力を高めるために、国際的に高い(東京都で35.64%)とされる法人実効税率の引き下げは必要です。しかし、政府で議論されている法人減税は、企業にとって必ずしもバラ色とは限りません。 

 焦点は、その財源です。財務省と自民党税調は、財源のない引き下げには応じられないとしており、財源として、課税ベースの拡大、すなわち、税率を下げる代わりに、より多くの企業に、薄く広く税を負担してもらうという議論がされています。現在、法人税は企業が「もうけ」に応じて払うのが原則で、全体の3割にとどまる黒字企業がそのほとんどを負担しています。そこで、企業のもうけではなく、従業員の給与総額等を基準にして、赤字の企業にも税を負担させる案(外形標準課税)が検討されています。これについては、「従業員の給与を上げる政府方針と矛盾する」との指摘があるように、政府の政策全体との整合性が問われます。財源としては、他に、中小企業への優遇税制見直しや、企業が子会社から受け取った株式配当に課税しない制度の縮小等が議論されており、中小・大企業双方から慎重意見が出ています。 

 アクセルを踏みながらブレーキを踏むようなやり方を、なぜ行おうとしているのか。その背景に、経産省と財務省の攻防、そして、基礎的財政収支の赤字を2015年度に半減し、2020年度に解消する、とする「国際公約」の存在があります。

◆隠れた本当の意図 
 安倍政権の経済政策「アベノミクス」のアキレス腱は、成長戦略と財政再建です。昨年6月に政府は成長戦略を策定しましたが、岩盤規制等への切り込みが不十分で、「迫力不足」との指摘を内外から受け、株価伸び悩みにつながりました。そのため、来月の成長戦略の改定で市場の評価を得られるか、政権の正念場となっています。そこで、改革姿勢を示すための目玉とされたのが、法人減税です。 

 現在、政権内では、経産省が力を持っていると言われ、財務省からは、本来、2020年の消費税率のさらなるアップに向けての取引材料と考えていた法人減税が、経産省が担う成長戦略の失敗を覆い隠すために使われていることに不満が漏れているとも言われています。 

 経産省と財務省の攻防、さらには、2020年に向けた財政再建の国際公約、これらが複雑に絡み合い、法人減税の議論が展開されています。 

 経済再生と財政再建の両立は重要です。しかし、2020年という短期の数値目標を絶対視することは、二兎を追い、結局一兎も得られないという最悪の結果を招く可能性があります。重要なのは、中長期の財政再建計画を示すことです。そのためには、歳出の抑制や一般歳出の半分を占める社会保障の改革が不可欠です。法人減税は確かに必要ですが、それを目くらましにして、真の課題である、経済財政の構造改革や社会保障改革がなおざりにされないか、問題点を指摘しつつ本質を見極めた議論を展開して行きたいと思います。(了)

 

スタッフ日記「暴れん坊の男の子」 
 先日、気象庁が今年の夏にエルニーニョ現象が発生する可能性が高いと発表しました。 

 「エルニーニョ」とは、ペルー沖で海水温が高くなる現象の事で、世界中に異常気象をもたらす原因だといわれています。実際、エルニーニョになると日本では雨が多く、気温の上がらない夏になりやすいようです。 

 スペイン語で「男の子」を意味するエルニーニョ(ちなみに反対に海水温が低くなる現象は「ラニーニャ=女の子」と呼ばれています)ですが、2009年→中国・九州北部の豪雨災害が発生、1993年→日照時間が少なくて米不足が発生など、それにより引き起こされたできごとを並べてみると、公園の砂場で遊ぶようなかわいらしい子ではなく、ずいぶんと暴れん坊な困った男の子をイメージしてしまいます。 

 私は以前、衣料関係の商売をしていたので、冷夏になると夏物衣料が売れず苦労しました。ただ、服飾関係でなくとも、冷夏は景気に大きく影響するようで、1993年には政府がバブル崩壊後の景気回復を宣言したものの、取り下げるという事態まで発生しました。そういう意味では大変なドラ息子です。 

 さて、今年はどんな夏になるのでしょうか。私自身は、「冬は冬らしく、夏は夏らしく」というのが一番だと心では思うのですが、還暦を過ぎ、寒さにも暑さにも年々弱くなっている気がします。冬は保温性の高いズボン下(というよりモモヒキ)が手放せませんし、夏は庭先でぐったりとしている犬を見て、「ああ、いいなあ、犬は気兼ねなくだらりとできて。うらやましい…」などと考えたりします。皆様もどうかご自愛下さい。(スギ)

第640号 法人減税の目的は何か