第573号 高齢者医療と世代間の公平
15日、2012年度補正予算案が閣議決定され、その中に、70~74歳の医療費窓口負担を1割に据え置いている特例措置を、今年4月から1年間続けるための経費約2000億円が計上されました。今回は、高齢者医療の負担と世代間の公平の問題について考えます。
◆これまでの経緯
70~74歳の医療費窓口負担は、自公政権が、2006年に、医療制度改革関連法案を成立させ、2008年4月から、負担を1割から2割に引き上げることを決定しました。しかし、2007年参院選での自公の大敗を受け、両党が高齢者の反発を危惧して1割のまま凍結し、毎年度2000億円の国費を投じて1割に据え置いてきた経緯があります。
◆なぜ負担の見直しが必要なのか?
1990年に1500万人程度であった65歳以上人口は、昨年、3000万人を突破し、30年後の2042年には、3800万人程度になると見込まれています(国立社会保障・人口問題研究所推計)。また、総人口に占める65歳以上人口の割合は、昨年、24.1%と過去最高を更新しました。およそ4人に1人が65歳以上という状況です。背景としては、少子化に加え、「団塊の世代」の先頭グループである1947年生れの方が65歳を迎えられたことが挙げられます。第1次ベビーブームに生まれた団塊世代の方々は、今後も続々と65歳に達します。一方で、少子化は歯止めのかからない状況が続いており、社会保障費の増加に対する対応は急務です。特に、高齢者世代と現役世代、さらには、子・孫といった将来世代等、世代間の負担の公平性にも配慮した議論が必要です。
◆負担の議論と政治
昨年の消費増税に関する議論に見られるように、国民の皆様にご負担をお願いする議論は、政治にとって大きな試練となります。
今回の補正予算により、安倍政権は、70~74歳の医療費窓口負担をいつ法律通りの2割にするのかについての議論を、今年夏の参院選後まで先送りする見込みです。しかし、選挙で負担の議論を恐れていては、早急な対応を求められている少子高齢化時代における持続可能な社会保障制度の構築は手遅れになります。1割負担を維持するために、年約2000億円の費用がかかっており、2割負担とする法律ができた後の支出は、既に1兆円近くにのぼっています。その支出は、後世代への負担先送りとなります。また、1割に据え置くための財政負担は、団塊の世代が初めて70歳になる2017年度以降、毎年200億円程度増加するとも言われています。世代間の公平にも目を向け、議論と対応を急ぐ必要があります。
民主党政権は、子育て支援を「人生前半における社会保障」と位置付け、消費増税分の財源の一部を若年世代にも使うこととしていました。厳しい財政事情のもと、世代間の公平にも配慮した、持続可能な社会保障を実現するのに魔法の杖はありません。政治家各自が、覚悟と責任、そして明確なビジョンを持って議論を急ぐべきです。私自身も困難な議論から逃げることなく、公平な社会保障制度の実現に向けて努力していきます。(了)
スタッフ日記「情熱正義」
先日、『海賊と呼ばれた男』という本を読みました。戦後のとある石油会社を創業した人をモデルとしたノンフィクション小説ですが、とにかくその主人公のパワーと行動力に圧倒されました。
一言で言うなら、敗戦の混乱の中で全資産を失い、借財まみれになっても千人の従業員を1人たりとも解雇しなかった、そんな胆力のある主人公です。
特に圧巻はクライマックスのシーンです。1950年代前半の石油業界は「7人の魔女」と呼ばれるイギリス系の国際石油メジャーが取りしきり、逆らうことは許されない状況でした。
そんな中、主人公はその支配に敢然と立ち向かい、イギリス海軍の海上封鎖をかいくぐって、同じようにそのイギリス資本に反旗を翻したイラン(メジャー支配の中では自国に埋蔵されている石油なのに自分達で売ることが許されなかったのです)から直接石油を買い付けるのです。
こうしたパワフルな主人公ですから、周りにもスケールの大きな人がいて、主人公と共に日本の高度経済成長の基礎を築いてゆきます。その一つひとつの出来事にどきどきして勇気づけられる、そんな話でした。
今回の選挙は「情熱正義」という文字ポスターを使いました。代議士がマジックで自筆したものを夏空のような青いバックに浮かべたデザインでしたが、正直、貼る時は「ピンと来ないなあ」と思っていました。しかし、この本を読んで何故だか脳裏に浮かんだのは、その真っ青なポスターが街角で風に吹かれている光景だったのでした。(チュウ)