第563号 軽減税率は得なのか? 

2012年10月20日 (土) ─

 三党合意を経て社会保障と税の一体改革法案が成立し、消費税が2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げられる見通しとなりました。これに伴い、問題となるのが低所得者対策です。全ての商品に課税がなされる消費税は低所得者ほど負担が大きくなるからです。 

 民主党は低所得者への減税や、現物支給などを行う「給付付き税額控除」を主張してきましたが、自公は生活必需品などへの消費税率を低くする「軽減税率」を支持しています。実際、安倍総裁は総裁選で公約として掲げ、公明党も9月22日発表の公約案で軽減税率を大きく取り上げている上、10月16日には、城島財務相に対し軽減税率導入の申し入れを行いました。 

 マスコミも軽減税率を概ね好意的に捉えているようですが、軽減税率が本当に低所得者対策になりうるのでしょうか? 

 軽減税率の導入例としてEU諸国がよく引き合いに出されますが、2011年のIMF(国際通貨基金)レポートでは「効果は極めて限定的なものに過ぎない」と低所得者対策になりえていない実情を報告しています。諸外国では軽減税率は失敗しているのです。

◆IMFレポートの試算 
 このレポートでは日本で軽減税率を導入した場合の試算がされています。そこでは所得層の下位20%(低所得者)と上位20%(高所得者)について①全てのものに単一15%課税、②食料品は10%・その他のものは17%の課税、③食料品は5%・その他のものは18%の課税、という3パターンを比較し、負担率を出しています。 

 これによると、低所得者も高所得者も①、②、③全ての場合における税負担がほぼ変わりません。つまり、軽減税率を導入しても低所得者の負担が減るわけでも、高所得者の負担が増えるわけでもないのです。 

 軽減税率を導入した状態で単一税率と同じ税収を確保するには、他のものの税率を上げなければなりません。確かに、低所得者の支出に占める食料品の割合は高いのですが、生活する上で食料品ばかり買うということはありえません。食料品の税負担がない分、住居費、教育費、交通費、光熱費などその他の税率が上がれば、それが低所得者の家計に大きな影響を与えてしまうのです。

◆確実な低所得者対策 
 同レポート内にはもう1つ、食料品に課税をしていない英国で、ゼロ税率をやめ、低所得者対策を給付に切り替えたら各所得層の負担率はどのようになるか、という試算があります。 

 それを見る限り、軽減税率はなくなるものの、給付がなされるため、低所得者の負担は減少します。中間より少し所得の低い層でその損益は±0となりますが、高所得者は給付がなく、負担のみを負うことになるため、確実に低所得者対策となります。日々の生活において目に見える出費が少ないため、軽減税率の方が財布にやさしいように思えますが、家計全体で考えると全く意味はなく、むしろ給付付き税額控除の方がはるかに効果が期待できるのです。 

 所得の把握や線引きの方法など給付付き税額控除にも課題はありますが、しわ寄せが低所得者にばかり向かないよう政調会長代理としてしっかりと議論をして参ります。(了)

スタッフ日記「立つということ」
 この夏ぐらいから学園前の駅前の道路の横断歩道の脇に1人の男性が立ち始めました。

 肌をじりじりと焼く真夏の陽光の中で、真っ黒に日焼けしたその男性は駅から来る人の方を見ながら、頭上に薄い雑誌のようなものを掲げています。

 「新たに創刊した雑誌の奇抜な宣伝なんだろうか?」そんなふうに思いながら通り過ぎていたある日、「ホームレスの方が自ら売って自立支援をするために創刊された雑誌ですよ!」そう人から教えられました。

 「そうなんや!」その日そこを通った時に、初めて声をかけ、1部買いました。

 ほとんど身体を動かさず立っていた男性はきびきびとした動作で、透明のビニールに包まれた雑誌を取り出し、少しニコッと笑った気がしました。

 持って帰って読んでみると、その雑誌はホームレスのみが販売できる雑誌としてロンドンから始まり、世界中に広がっていった事がわかりました。東京や大阪などではずいぶん前から販売していたようですが、その波が奈良にもやってきたというわけです。世界中で貧困やホームレス、精神障害等に取り組んでいる人の記事やメッセージが載っていました。決して高くはない雑誌の料金の一部は実際に売っておられる方の収入に、そしてあとの残りは雑誌を継続的に発行する為の資金になるそうです。

 昔、代議士のポスターに「自立する勇気、見守る愛」というのがありました。今日も日差しの中、立ち続ける姿に勇気をもらったのは僕でした。(チュー)

第563号 軽減税率は得なのか?