真の争点
一昨日、国会が召集され、総理の帰朝報告、財務大臣の補正予算に対する財政演説が本会議でなされた。さらに、安倍総理の年頭会見。総理は様々なことを発していたが、私の耳に残ったのは二点だけだった。一つは、「憲法改正については参院選でしっかりと訴えていく」であり、もう一つは「衆院の解散については全く考えていない」だ。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2016/0104kaiken.html
しかし、この二つについては総理の言葉を額面通り受け取るわけにはいかない。
確かに、昨年の通常国会閉会時の会見でも総理は参院選の争点に憲法改正を位置付けていた。しかしながら、その後のアベノミクス第二弾、今国会冒頭のバラマキ補正予算措置、あるいは軽減税率導入も含めて、総理の政策実行の力点は「経済」に特化していると言ってよい。中韓並びにロシアなど近隣諸国との外交政策にも積極的に取り組む姿勢は感じられるが、やはり何と言っても景気の回復が政権の最重要課題と位置付けているのは間違いないだろう。
だから、総理が本当に参院選の争点を憲法改正と位置付けて戦うことで、勝利を得られると考えているかどうかは疑問の残るところでもある。
では、経済最重点と置いた時に、考えられる争点は何か?それは、日本経済が増税に耐えうる状況にない、すなわち日本経済のための、消費増税の凍結・先送りだ。
つまり憲法改正というダミー争点が、ダミーでなくなるような経済・景気の回復が確実に見込まれる状況であれば、それは総理にとってはベストの状態であり、憲法改正が真正面の争点に引き上げられるかもしれないが、もしそのような順調な経済情勢でなければ、争点は消費税先送りに転じる可能性がある。
そして、もう一つの1月4日の召集という会期は、衆参ダブル選を可能とする日程でもある。つまりは、2014年と同様に、消費増税の先送りと解散がセットで行われる可能性を十分に考えておかなければならない。
そこで、様々な経済指標の公表時期や税制改正大綱に示された期限、並びに選挙などの政治日程から、どの段階でどのような判断が導き出されるかを少し考えてみたい。
過去,引き上げの決定,引き上げの決定の延期ともに、経済情勢の判断が形式的に行われてきた経過を確認してみる。
(過去の例)
・2014年4月消費税率引き上げ決定⇒2013年10月1日
経済情勢の判断として2013年9月9日に4-6月期GDP第二次速報、10月1日に日本銀行短観
・2016年10月消費税率引き上げ延期⇒2014年11月18日
経済情勢の判断として11月17日に2014年7-9月期GDP第一次速報、10月末に民間予測発表
そして現在、28年度の税制大綱に明記されている消費税引き上げ関連の期限は以下のとおり。
7月末:政府経済見通しの見直し(内閣府試算)のタイミング、30年度に向けた財政健全化目標の中間評価
12月:29年度予算及び税制大綱、安定財源の確保について28年度末までに歳入・歳出面の措置
これに参議院選挙と経済情勢の判断に使われる指標発表のカレンダーを重ねてみると以下のようになる。
3月末まで 税制改正の法案審議
4月末 3月の鉱工業生産
5月中下旬 GDP2016年1-3月期と2015年度についての一次速報
6月1日 国会会期末
6月中下旬 GDP2016年1-3月期と2015年度についての二次速報
7月10日 参議院通常選挙
7月末 政府経済見通しの見直し(内閣府試算)のタイミング、30年度に向けた財政健全化目標の中間評価
8月中下旬 GDP2016年4-6月期の一次速報
9月中旬 GDP2016年4-6月期の二次速報
10月初日 日銀短観
11月中下旬 GDP2016年7-9月期の一次速報
12月上旬 GDP2016年7-9月期の二次速報
まず、本日の代表質問から始まる国会審議で、税制改正の法案の審議状況が一つの判断の分かれ目だ。
通常課税品目と軽減課税品目との境目、あるいは軽減税率は金持ち優遇等、国会で白熱した論戦になり、一方で租税特別措置法と抱き合わせで日切れ法案として出されるので、年度末の期限までに最終的には、強行採決になると思われる。このときの世論が一つの判断材料だ。新聞報道は、おそらく軽減税率の対象になっているため、政府に甘い報道が繰り返されるかもしれないが、厳しい世論が形成されて「このままでは参議院選挙がもたない」という官邸の「政治的な意思」が形成される数少ない、もしくは唯一の機会ではないかと思われる。この審議の推移によって、官邸の政治的意思の転換が図られたかどうかを見極めることが必要だと思っている。
次に、4月末の鉱工業生産の発表後、2015年度のGDPの民間予測が一斉に公表される。政府経済見通しでは、2015年度は実質1.2%、名目2.7%目標だ。この政府経済見通しとの乖離幅も一つの判断材料だ。
そして、仮に衆参同時+引き上げ延期・凍結を狙うのであれば、5月中下旬の2016年1-3月期GDP、2015年度GDPの発表が一つのタイミングになるだろう。これは,2014年11月の延期と同様のパターンでもある。
また、衆参ダブルが行われることなく参院選単独の場合、その結果にもよるが、次に、訪れるタイミングは、7月末の政府経済見通しの改定時だ。このときに財政健全化目標の中間評価が行われる可能性があるが、景気見直し条項が落とされているため、行政的な行事として淡々と進められる可能性もある。
経済情勢のみで考えれば、11月が一番あり得る。中国経済や新興国経済などの情勢がかなりひどい状況の場合には、この時点で延期の決定をする機会になる。
以上のように、年度末、そして5月末、さらに11月というタイミングで、消費増税凍結が争点化するか否かということの見極めが大切だ。また、財務省も前回の経験を踏まえれば,何らかの経済的な対策を早々に打ってくるかも知れないが、見直し条項がないことで、やや警戒感は低いような気がする。
一方、政治的な意思が、何がきっかけになるか現時点では極めて不透明だ。
参議院選挙の結果、再度、衆議院を解散することにより「何かが得られる」ということを見通すことが難しい可能性もある。また、おおさか維新などの政治的な動きや参院選結果による憲法改正を睨んだ動きと連動するかもしれないのである。
以上のように、カレンダーを睨みつつ、国会審議状況と国民世論を敏感に感じ取りながら、争点がどのように定まっていくのか、そして、衆院解散とリンクしていくのかを、見極めなければならない。
それが、今回与えられた、私のミッションでもある。
ミッションポシブル、にしないと。