ベストプラクティス

2006年9月19日 (火) ─

 大連で見てきたBPOの話の続き。

 前にも書いたが、BPOとは結局企業活動のさまざまな業務手続を、最も高い質でノウハウとして持つことができたIT先端企業がそうしたスキルやノウハウを持たない企業に提供していくというビジネスモデル。

 これ自体は、大連のソフトウェアパークで目にしたその開発状況や実施状況でよく理解できた。そして、このようなベストプラクティス(最適処理)と呼ばれる業務処理を手にすることができるのは、外注が可能な大手企業でしかなく、ますます中小、零細との力の差は広がるばかりだとも書いた。

 そして、もはやこの差は埋め尽くすことが不可能ではないかと見まごうばかりにまで達している...というのが正直な感想なのである。

 もちろん、市場競争の現場では、私の発する危惧というのは意味を為さないこともよく承知している。しかし、なんとも言えない寂寥感にさらされたのも事実。

 この先のビジネストレンドがどのような方向に行くのかは私が予見できるものではない。しかし、間違いなくITを用いたBPOなどによって、こうした企業間における競争力の決定的な差は拡大していくのであろう。

 そして日本の強みだったはずの中小企業が、このようなトレンドに乗ることができないまま、回周遅れで走っているランナーのように自らの位置すらわからない状況に陥りはしないか、との不安が募る。最先端との差を、果たしてどの程度経営者たちは把握しているのだろうか。自らも経営者の端くれにいたものとして、とにかく警鐘を鳴らしたい気分なのである。

 そして、一方でこのようなベストプラクティスの蓄積は、制度設計に極めて重要なものである。政治の世界でベストプラクティスが求められているものは何かといえば、社会保障制度である。国によって、人口も世代構造も一人当たりのGDPも気候風土や慣習も、すべて違う中で簡単ではないとも思うが、社会保障制度などという「システム」の世界こそ、現時点におけるベストプラクティスが存在しうる。

 優れたIT企業たちが、社会保障制度のベストプラクティスを提供できるならば、それこそ本当の意味での社会貢献ではないかと思う。

 信頼できる経営者の方に、これからのビジネスの方向性として社会保障制度のベストプラクティスを提示するという領域に踏み込んでください、とお願いした。一企業では難しいなら、それこそ最高のスキルやノウハウを持った企業群によって、各国政府に提案できるものを考えていただければと願う。もちろん、政治が判断すべきは当然のことながらある。

 しかし、一つ一つの最適化を図るだけでなく、全体最適化を図る作業を、そのノウハウによって示されることの意味は極めて大きい。

 果たして、そのような時が訪れるのか、思い描いてみるのもいいかもしれない。

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