紆余曲折のIR法案を見極める
通常国会も会期末を控えて、最終局面だ。外交では来週の米朝会談が、世界中の注目を集めているが、内政では財務省決裁文書改ざんの内部調査報告を受けての政治責任、働き方改革法案の参院審議、IR法案など、与野党のつばぜり合いが続く。
政治は結局は、選挙に絡む。従って、内政問題については、新潟知事選が現在、横一線の状況ということで、「選挙にどう影響するか?」という一点で、国会運営が為されることは間違いない。
そんな中、閣法として出てきたIR法案は、相当に与党の中での綱引きが色濃く表れた内容となったとみている。
結論から言えば、「カジノで地元利益を!」と鼻息荒い一部自民党族議員たちを、観光政策の一環として創る「国際ビジネス交流拠点・観光インフラ整備の一部施設」へと、公明党が押さえ込んだ、という図だ。
2月から行われてきた与党政策責任者会議のメンバーを見ると一目瞭然。自民は岸田政調会長の他に、岩屋毅、萩生田光一両衆議院議員と阿達雅志参議院議員。岸田政調会長の他は積極的なカジノ展開推進論の皆さんだ。一方、公明党は石田祝稔政調会長に、遠山清彦衆議院議員、と西田実仁、石川博崇両参議院議員と、慎重論の皆さんが名を連ねておられるように見受けられる。
ここでの綱引きで、できあがったのが4月3日の「与党IR実施法に関する検討WTとりまとめ」。
様々な事柄がここで概ね決まっている。
施設規模についてはカジノ施設は延べ床面積の3%以下となっているが当初は15,000平米以下の議論もあったが、削除された模様だ。大規模施設では3%の枠で拡げられる可能性が残った。
一方、認定数、すなわち設置箇所数は、当初は自民党が最低でも10カ所と意気込んでいたのがとりあえずは3カ所となった。これは、世論を考慮した側が、慎重論で押し返したのだろう。
また、憲法改正を見据えて維新の取り込みに必死な官邸は、まずは、大阪万博に間に合うようにということで、地域の認定プロセスを二段階に分けている。大阪万博開催となれば2025年。その前年までには開業できてないといけないとして、第一弾の区域整備計画の認定を2020年までにとしたのもそのためだ。
こうした与党内の事情で、法案は、ずいぶんと当初の方向からは変わったと思う。
重要な政令事項は二点。
政令は閣議決定で決まるので国会審議がない。ある意味政権にとっては都合の良い決め方。これで見ると、カジノ施設規模と中核施設の要件だ。
カジノ施設規模は3%と取りまとめに書かれたので、政令でも変わりはないだろうが、大変なのは中核施設の要件。国際ビジネス交流並びに観光拠点を構成する会議場、展示場、ホテル、演劇場、送客機能などの施設要件を詰める作業は今後、事業者を認定していく上においても、相当熟度を高めて決めていかないといけなくなる。
ある意味、新たな観光政策の事業体設置が求められるレベルになるということだ。主務官庁は国交省なので、相当の精鋭を集めた組織構築が、求められるのは言うまでもない。この政令によって、この法案が謳う、「国際競争力の高い魅力ある観光地の形成」に繋がるかどうか、が決まるからである。
与党公明党の頑張りによって、ある意味従来型の自民党による利権構造構築に歯止めをかける形の法案になったことは評価できるし、既にギャンブル依存症対策も議員立法で衆院を通過しているのをみると、概ね、良識的な範囲に法案は収まりつつあるようには窺える。
ただし、自民党族議員は諦めてはいないだろうから、今後も、よく、慎重に成り行きを見極めていかないといけない。
観光政策の一環、観光インフラの整備、という大義が崩れないように、監視を続ける必要はあることは間違いない。ただただ、「温泉地にギャンブルくっ付けて」などとならないようにしなければならない。