第883号 子どもを社会で守る
虐待、交通事故、貧困などで、子どもが心身に深い傷を負う痛ましい事件が相次いでいます。子どもを救うために、現場の生の声を政策に反映させていかねばなりません。
◆児童虐待の実態
4月、私は奈良県中央子ども家庭相談センターを訪問し、奈良の児童虐待の実態について説明を受けました。奈良県の、平成29年度における児童虐待相談への対応件数は、1481件に上ります。その内訳で最も多いのが、子どもを大声で怒鳴りつけて恐怖を与えたり、子どもの目の前で父親が母親に暴力を振るうなどの面前DVと称される心理的虐待で、51%を占めています。次に多いのが育児放棄などのネグレクト、そしてその次が命の危険を伴う身体的虐待となっています。
このように実は圧倒的に多いのが心理的な虐待です。心理的虐待は子どもの心に一生の傷を残すものであり、また、身体的な傷と違って表面化しにくい特徴があります。また心理的虐待がエスカレートして、身体的虐待などの重度に至る場合もあり、初期段階での対処が、対策の重要な課題だと感じています。
◆量を増やすだけでは解決しない
安倍政権の大きな方針は、児童相談所、児童福祉司等の数をとにかく増やし、「量」によって問題解決を図ろうとするものです。しかし、児童福祉司として任用されるためには実務経験を要する場合が多く、また、子どもの複雑な心情を理解して適切な対応を取るためには、高度なスキルと豊富な現場経験が求められます。今の状況では人材の確保は容易ではない、というのが現場の声です。むしろ、長期的に児童保護を担う人材の「質」を上げるための育成手段の確立のような、本質的な解決策に取り組むべきであり、単に相談所と人を増やそうとするだけでは、子どもの保護としては不十分です。
◆子どもを貧困から救え
子どもの貧困も深刻な問題です。今、日本では子どもの7人に1人が貧困状態にあります。特に、シングルマザー(ファーザー)により育てられている子どもの貧困は顕著です。親がシングルになる事情は様々ですが、多いのは離婚です。私が、離婚と養育費問題に取り組む弁護士に伺った話では、離婚調停を扱う家庭裁判所では、調査官の員数不足などにより調停期日が入らず、本来親権を早急に確定しなければならないにもかかわらず、調停の長期化によって逆に固定化が進んでしまう場合も後を絶ちません。
また、離婚が成立したとしても、母子世帯の場合、養育費を継続的に受け取っている比率は2割程度と見られています。そして、養育費を支払わない相手に対し泣き寝入りせざるを得ず、それによって子どもの貧困が深刻化する例が数多く見られます。国もそうした状況を放置しているのが現状です。例えばフランスでは、養育費を支払わない親には、徴収官による公的な取り立てが行われるなど、子どもを守る仕組みが整備されています。子どもを貧困から救うために、日本でも、養育費不払いに対する公的な救済手段を検討すべきです。
子どもを社会が守るために政治が何をすべきかは、目前に迫った参議院選挙でも大きな争点となるべきだと考えています。
スタッフ日記「次世代選挙」
この夏には、令和となって初めての国政選挙である参議院選挙を控えています。次世代の未来の選択肢として、どのような日本を残していくのか、この議論からは切っても離せないのが若年層の政治参加です。
米国では、前回そして一年半後に迫った大統領選を見通して若年層を中心とした、“インスタグラム政治”とも呼ばれる、SNSを駆使した政治手法が注目を集めています。一見、過激な発言ともとれる強い発信力が若者に受け、日常生活までもさらけ出す政治家に、親近感を持つ感覚が、政治をより身近に感じさせているそうです。
若者は投票に行かない、政治より自分のことが大切であると価値観そのものが変化している、そう囁かれて久しい日本の若者はどうでしょうか。
内閣府による、日米英仏韓の18~24歳を対象とした世界青年意識調査の統計によれば、政治に「非常に関心がある」と回答したのは、日本が11.7%で、米国の16.4%に次いで高い数値となっています。また、「まぁ関心がある」と回答した数字と合わせると、日本は57.9%となり、主要五か国の中でも最も高い結果となりました。
この結果からも、SNSやユーチューブ動画を通して反応し、コメントはするが、直接投票行動には結びついていないことがわかります。若者のライフスタイルが多様化する中では、投票所が小中学校や公民館よりも、公共交通の駅や買い物客で賑わう商業施設に併設されるような、「選挙に行きやすい選挙」を目指すことが重要だと感じます。非正規雇用が増え続ける中では、日曜日に限らず祝日が投票日というのも若者が、真に政治参加してもらえる制度改革の第一歩なのかもしれません。(特命係長)