第846号 多様性への配慮なき政治

2018年8月4日 (土) ─

 自民党の杉田水脈衆議院議員が、「LGBTは子どもを作らない。つまり、生産性が無い」との寄稿を行った件が波紋を広げています。同議員の言動に関しては、我が国の現在の政治が直面する課題が含まれているように思えます。

◆人権意識欠く寄稿
 LGBT(同性愛者、性同一障害などの性的マイノリティ)の方々の比率は、日本の人口の7.6%に上るとの調査結果があります。LGBTの中で、同性愛は個人の考えと生き方の問題であり、憲法上の幸福を追求する権利として尊重されるべきですし、性同一性障害に対しては、他の障害と同じく、社会的に十分な配慮が必要です。

 最近になりようやく、LGBTの方々への偏見を取り除く取り組みが社会において広がりをみせるようになってきたにもかかわらず、本来「差別」に厳しく対峙すべき国会議員という地位にありながら、人権意識を欠く杉田議員の寄稿は、決して許されるものではありません。

◆「生産性」という言葉への違和感
 杉田議員の寄稿からは、明らかにLGBTの方々に対する差別意識が感じられますが、それと共に「生産性」という言葉から私が感じたのは、国家が国民を一律の基準に従った生き方に誘導し、統制することを是とする意識に対する強い違和感でした。

 本来、子どもを産むか産まないか、家族のあり方をどうするかは個人の生き方そのものと密接に関わる問題であり、生産性の尺度で優劣が測られるものではありません。それを、あたかも人を、物を作りだす機械のごとく、生産性のある無しという基準に当てはめ、それが無い場合は劣っているかのように与党の国会議員が主張するのは、国家による特定の価値観の押し付けに他なりません。また、杉田議員に対し、発言撤回を求めない自民党についても、発言を黙示的に追認しているに等しくその責任は極めて重いと考えます。

◆多様性認める政治が必要
 日本は、古来から思想的少数者も含めて互いに排斥しない、皆が共生できる社会を築いてきました。

 ところが、明治になって中央集権的で強力な「国家」が作られた際、国家の発展のためには国民は特定の価値観に従って均一的であることが望ましく、そのためには、「生産性」という物差しで物事を判断すべきだとの思考が中央政府に産まれ、それが脈々と受け継がれていくことになったのだと思います。そして、自民党政権は、基本的には明治政府の性質であった中央集権主義、官僚主義、効率性を持った生産性至上主義を受け継ぐ政党です。今回の杉田議員の寄稿について、政権や党中枢からなかなか批判の声が聞こえてこないのも、そうした考えを内包している政党だからと考えざるを得ません。

 政治の役割は、個々人がそれぞれの生き方を全うできる社会をつくることであり、差別は決して許されません。また、人間を一つの価値観で判断し、国家が優劣をつけることも絶対に許されません。一人ひとりが自らの価値観に従って人生を送りつつ、他者と共生できる社会の構築を目指す政治勢力を作っていかなければならないとの思いを今回の一件を見て改めて強くしました。(了)

 

森ちゃん日記「若者を地方へ呼び込む」
 農業就業人口は減少傾向の一途を辿り、深刻な課題とされてきましたが、一部の地域を中心に若者の農業離れが回復傾向にあります。農林水産省のデータでは平成28年の新規就農者は60,150人で、二年連続で6万人を超え、このうち49歳以下は22,050人で、平成19年以降では前年に次いで2番目に多い数値となりました。食育をはじめとした健康ブームとともに、物価や住宅費が安い面や、自然環境の中でこそ感じられる豊かさによって働く上でのワークライフバランスを重視できることが若者の就農増加の要因だと考えられます。

 奈良県では、大消費地である大阪・京都に隣接する立地から都市近郊型農業を推進し、なら食と農の魅力創造国際大学校を起点に農業ビジネスに挑戦する若者と女性を農業インターンへ積極的に受け入れています。北海道のような大規模農家でないからこそできる耕作放棄地のシェア、農機具や隣近所の繋がりによる人手のシェアも今後期待されます。都市部よりも自然豊かな地方で暮らしを求めるIターン移住者の若者を、奈良県に呼び込むための魅力を発信できるか。そして、よそから来た人がその土地にある魅力を発掘し、全国に発信した成功例がいつくもある事からも、新しい奈良を発信できる芽が“農業”に隠されているかもしれません。

第846号 多様性への配慮なき政治