第832号 労働者主導の働き方を
5月1日はメーデーです。長時間労働による過労死、少子高齢化による働き手不足、正社員と非正社員の間の賃金格差など、労働者を取り巻く環境が厳しさを増す今、働き方改革は政治に課せられた重要な使命です。
◆強調される成果主義
政府は働き方改革関連法案の今国会での成立を目指しています。根拠となるデータのミスが発覚したため、法案の核となる予定だった「裁量労働制」についてはいったん削除されたものの、一定の年収以上の専門職を対象とする「高度プロフェッショナル制度」は法案に盛り込まれています。これらは実際の労働時間と連動しない形で賃金が支払われる仕組みという点で類似の制度であり、政府の基本的方針には変化はありません。政府の説明では、労働時間よりも仕事の成果に対応した給与体系になることにより、仕事が終われば早く帰宅できるなど、労働者にメリットが生じるということばかりが強調されています。
◆労働者の立場が弱い日本
しかし私は、現状の日本における会社と労働者の関係の中では、単に成果連動型の賃金を導入することは労働者の利益とはならないと考えています。裁量労働制のモデルである欧米企業では、雇用の高い流動性を背景として、労働者が転職を重ねることを前提に自らの裁量で仕事を行うことを会社と契約する一般的傾向があります。
一方、日本の会社は長期の雇用を前提として、個人の裁量よりも組織の一員としての業務が重視される傾向にあります。また、転職が容易ではなく、いったん正社員のルートら外れた場合のセーフティネットが十分ではないので、労働者が残業などの労働条件について、会社に対する強い交渉力を持たない弱い立場に置かれている現状があります。
いわば日本では、裁量労働制の前提となる労働者主導の労働環境の構築が不十分なのです。こうした現状を変えずにただ裁量労働制を形式的に導入しても、自由な働き方にはつながらず、単に労働時間は変わらずに残業代が支払われないだけという結果になりかねません。
◆労働者主導の働き方改革を
こうした現状の中で求められるのは、労働者が主導できる働き方改革だと思います。例えば、転職市場活性化のための企業の中途採用促進や、労働者が自分のペースで仕事がこなせる在宅勤務の推進の支援などが考えられます。
そして、正規か非正規かで賃金の格差が生じている現況を是正して同一労働同一賃金を進めることは、労働者の権利強化とともに、セーフティネットの点でも重要です。これらの政策は野党が率先して主張してきたことであり、政府も推進の姿勢を示していますが、実現に向けてのスピード感が決定的に不足していると感じます。また、職場で長時間労働やパワハラなどの違法行為に遭った際にも行動を起こせない労働者の割合が相当高いという調査結果もあります。労働相談の場の充実など、労働者の権利を確実に保護する政策の推進も今の政府には欠けていると思います。野党は安倍政権への対立軸として堂々と労働者政策を中心に掲げて戦うべきです。
こうした労働者の立場を強くする政策を進めることで、企業主導ではなく、個々の労働者に働き方の主導権を握ってもらうことこそが、真の働き方改革につながると考えています。(了)
森ちゃん日記「奈良流の商い方」
奈良は、かつて甲冑や刀剣、墨、薬の地場産業が栄えていました。昭和を迎えて、各産業の衰退を背景に観光業主体へとシフトし、全国的な知名度を誇る観光都市に発展したのです。まさに大仏商法という言葉に代表されるように、寺社仏閣を中心とした観光客向け商売が主流となりました。
全国に3万3,069社あるとされる100年以上続いた老舗企業ですが、全国と比較しても県内の長寿企業の数は32番目と少ない傾向にあります。老舗企業は、次代に合わせた業態の変化と柔軟な経営を実行し、自然災害や経済危機などの困難を乗り越えて行く必要があります。そんな老舗企業の業種は、清酒製造業、貸事務所業、旅館・ホテル業、酒小売業が上位を占めています。歴史と文化を不断の努力の上にはぐくんできた奈良にとって、この数字から奈良流の商い方を発展させるヒントがあると感じています。
国宝・重要文化財の建造物棟数の人口比は、1万人あたり3.5棟と全国一を誇る奈良が、人口減少という難題を乗り越え、歴史・文化をどのように守っていくのか。そして、観光資源を十分に活かしていくためには何が必要なのか。後世に継承する伝統産業から“新しい”を創る奈良が、オリンピック後の観光業未来を先頭に立ってどう描くかが問われています。