第711号 刑訴法改正めぐる攻防

2015年10月31日 (土) ─

 先の通常国会で刑事訴訟法等の改正が審議され、衆院では民主党提案の法案修正が行われた後に可決されました。次の国会では参院審議が行われる予定です。

◆刑事司法の転換
 今回の改正は、①司法取引(容疑者や被告人が他人の犯罪を証言した場合に、検察官との間で不起訴処分や罪の軽減を合意できる制度)の導入、②捜査の可視化(殺人や強盗致死など一部の犯罪捜査で、全過程の録音・録画化を義務付ける制度)、③通信傍受範囲の拡大(捜査のため電話やメールを傍受出来る犯罪に、窃盗や詐欺などを追加)などが柱となっています。
 特に、主にアメリカで利用されている①の司法取引は、我が国が今まで想定していなかった制度で、これまでの刑事司法の概念を一部転換するものです。これに関しては、司法手続きは清廉潔白でなくてはならない(司法の廉潔(れんけつ)性)という観点からの批判があるだけではなく、容疑者や被告人が、自らの処罰を免れたり軽減してもらうために虚偽の供述を行い、他人を犯罪者に仕立て上げてしまう危険性が指摘されていました。
 また、②の可視化の対象は全刑事裁判事件のわずか2~3%程度に過ぎず、③の通信傍受は、傍受の際に通信業者の立ち合いが不要になるなど、当初の政府案は総じて検察や警察の捜査に対する歯止めが不十分なものでした。

◆修正による「歯止め」
 このように、不十分な点が多く見られた政府案に対し、民主党は、衆院法務委員会で問題点を指摘して徹底的な質疑を行い、法案が修正されました。
 司法取引に関しては、取引、協議の過程に必ず弁護士が関わることが定められ、協議の概要が証拠開示に備えて記録・保管されることになりました。こうすることで、検察官が誘導した虚偽の供述で無関係の第三者が巻き込まれてしまう冤(えん)罪が発生するリスクは、ある程度低くなります。
 取り調べの可視化については、今後の方向性として3年後に録音・録画の積極的な意義を踏まえた見直しが行われることとなり、可視化の対象犯罪の範囲を拡大する方向性が決定されました。
 そして、通信傍受については、傍受記録の閲覧・聴取や不服申し立てが可能である旨が傍受された本人に通知されることや、警察署内で傍受が行われる場合には、当該捜査に無関係な職員が立ち会い、適正を指導することなどが定められ、傍受の濫用を防ぐための修正がなされました。

◆継続した監視を
 こうした修正を経て衆院を通過した改正案ですが、成立した後の運用についてもしっかりと監視しなければなりません。事件の解決を図ることはもちろん重要ですが、その過程で、「捜査の必要性」ばかりが強調され、強引な捜査によって冤罪が発生したり、国民の権利の不当な侵害が生じるようなことは決して許されません。刑事手続きは清廉潔白でなくてはならないとする、「司法の廉潔性」が新制度でも守られているのかを見極め、問題点が発生すれば更なる修正を要求していく所存です。(了)

 

スタッフ日記「国会議事堂」
 天高く青空が広がり、気持ちの良い季節となりました。国会議事堂周辺には適度な自然も残されており、散策には最適な環境です。

 私は屋外だけでなく、議事堂の内部を散策することもあります。

 国会議事堂というと、左右対称の石積みで、中央に尖塔がある姿を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、内部は複雑な構造で、衆参各議院はもちろん、各種控室や記者会見室、国会図書館分館、議員食堂、配管剥き出しの地下階など多様な施設が入っています。作りは重厚で、とても硬くて耐久性のある花崗岩(かこうがん)や大理石が建築素材に使われており、さすが国権の最高機関、と言いたくなるような、堂々たるたたずまいを誇っています。

 しかしこの丈夫な石で出来ている国会議事堂ですが、目立つためか特撮もので怪獣たちの標的になりやすいようです。映画のゴジラシリーズでは計4回もあっさりと破壊され、その都度修理(?)されています。

 最初に破壊したのは初代ゴジラ(1954年公開)で、裏から見て左側の参議院側をゴジラが悠々と進むと、議事堂はバラバラに崩れ落ちました。

 当時は造船疑獄で国会が揺れていた時期で、政治への不満から、破壊シーンでは映画館内で観客が立ち上がり、拍手喝さいが起きたと言われています。

 近々、国内でゴジラ映画シリーズが復活するそうですが、今度国会議事堂が破壊されても、拍手など起きないよう努めていかなければならないと思っています。(アタリ)

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