安全保障に関する見解

2015年7月6日 (月) ─

 我が国の安全保障に対する私の見解を公表致します。

 安保をめぐる議論が錯綜する中、「必要性」と「許容性」という分析フレームをもとに、我が国への脅威に対する現実的対応、日米同盟や憲法との関係、政府提出法案への評価、対案について私の見解を整理しご提示させて頂きます。

 テーマの性質上、分かりづらいと思われる表現や内容もありますし、A4で10ページという長文になりますが、何卒ご容赦頂き、ご一読頂ければ幸いです。

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【我が国の安全保障に関する見解】~冷静な分析的検討に基づく「現実的」安保政策構築に向け~

はじめに
 昨年7月の政権による集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更、そして、今国会において審議されている安保関連法案をめぐっては、政府からこれまで十分に説得的な説明がなされていない上、場当たり的になされる説明は二転三転している。その背景としては、論理的な枠組みを曖昧にしたまま議論が進められている点が挙げられる。

 すなわち、本来、法制上の議論においては、「必要性」と「許容性」という2つの要件に分けて検討する必要があるにもかかわらず、政府は、両者を曖昧にしたまま議論を進めている。ここで、「必要性」とは、安全保障環境の変化等の制度変更の必要性等の立法事実を指し、また、「許容性」とは、憲法上許されるかという合憲性の議論、自衛隊員のリスク増に対する社会的な受容等のことを指す。

 昨年7月、集団的自衛権行使容認の閣議決定の理論的な支柱となった「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は、14名の委員のうち、1名の改憲派の憲法学者を除き、そのほとんどが、外交・安保の専門家で構成されるなど偏りが見られ、「必要性」の議論が先行し、憲法に合致するとの結論ありきで議論が進められ「許容性」の議論は不十分であった。そのことが、先月の衆院憲法審査会における憲法学者3名による安保法案「違憲」発言に繋がったといえる。

 私は、我が国をめぐる安全保障環境の変化、すなわち「必要性」の存在自体は否定しない。これについては、現実的な対応をとっていく必要がある。しかし、その「必要性」の中身については、より詳細な分析が必要である。「必要性」の議論についは、本来、(1)中国台頭等による東アジアにおける安全保障環境の変化、「今まさにそこにある危機」の議論と、(2)日米安保条約、すなわち日米同盟の強化という2点が存在する。現実的な危機への対処と、長期的に見た日米同盟のあり方はそれぞれを分けて議論し、国民の理解を得ていく必要がある。しかし、安倍政権は、この2つを一体的に捉え、国民に対して現実に存在する危機への対処の必要性を強調し、その例としてホルムズ海峡の機雷掃海を挙げているが、これを実質的に見れば、(1)の「今まさにそこにある危機」というよりもむしろ、(2)の日米同盟の強化の意味合いが大きい。そのため、政権が武力行使の要件として示す「存立危機事態」には、実質上「日米同盟存立危機事態」の要素が入り込み、それが、武力行使の限界の外縁を曖昧にしている。

 以上のような問題意識をもとに、「必要性」と「許容性」という分析のフレームを念頭に置きつつ、我が国の安全保障に関する私の見解を以下に示す。

第1 私の安全保障に関する見解

1 我が国の「自衛権」の存在とその行使範囲
(1)自衛権には、国際法上、自国を防衛するための個別的自衛権と、他国を防衛するための集団的自衛権がある。そして、具体的に自衛権が行使されるパターンとしては、[1]自国が攻撃される場合に、自国を守るために行使する(自国攻撃・自国防衛)、[2]他国が攻撃される場合に、自国を守るために行使する(他国攻撃・自国防衛)、[3]他国が攻撃される場合に、他国を守るために行使する(他国攻撃・他国防衛)、という3つのパターンが想定できる。[1]と[2]の場合は、あくまで自国を守るための自衛権の行使なので、個別的自衛権であり、[3]の場合は、他国防衛が目的なので、集団的自衛権である。国連憲章では、個別的自衛権と集団的自衛権の行使が主権国家に認められているが、我が国は憲法9条との間で整合性の取れる自衛権の行使範囲を独自に定める必要がある。

(2)[1]の個別的自衛権の行使については、国際法上(国連憲章51条)も、最高裁の示した憲法解釈との整合性(砂川事件判決)からも、我が国固有の権利として当然認められるものである。我が国が取るべき基本的な方針としては、この自衛権を、専守防衛という現行憲法の理念と整合性を取りつつ行使できるような法整備を進めていくべきである。

(3)[3]の場合の他国防衛のための集団的自衛権行使は容認しない。現行憲法下で、集団的自衛権の行使が認められるとする最高裁判断は存在しないと解されるし、歴代政府が積み重ねてきた見解との整合性を考えると、他国防衛を憲法が許容していると解することは出来ないからである。よって、他国防衛のために他国の領土領海領空に自衛隊を出動させることはしない。

(4)[2]にあたるケースとしては、他国への攻撃が我が国への攻撃へと発展する蓋然性が高い場合などが挙げられる。我が国周辺の公海上の米軍艦船等に攻撃がなされ、更にそれが我が国への攻撃に発展する蓋然性が高い場合などである。このような場合、我が国に急迫不正の侵害が生じ、我が国を防衛するため、必要最小限度の自衛権を行使することは個別的自衛権の行使として許容される。観点はあくまで「自国防衛のための」必要性と許容性が認められるかである。歯止めとして一定の地理的要素を含む縛りをかけることも必要であり、この場合、現在の安全保障環境に基づく地理的な行使範囲としては、東アジア周辺地域が想定できる。

 政府案との違いは、我が国の防衛のため必要な自衛権行使の範囲である。政府が例として挙げているホルムズ海峡での機雷掃海は、その前提となる機雷敷設が通常、ただちに我が国への攻撃に発展する事態とは言えず、急迫不正の侵害とまでは言えないことに加え、地理的にも我が国の領土、領海、領空を防衛するための行為とは言えず、容認出来ない。

2 日米同盟の維持と深化
(1)日米同盟は堅持する。特に、東アジア周辺地域における活動の連携は深化させていく。ただし、アメリカに対する攻撃に対し、自衛隊が一体となってアメリカ防衛のみを目的とした行動はしない。また、アメリカによる他国への先制攻撃には加担しない。

(2)現実的に考えると、集団的自衛権によるアメリカ防衛を全面的に認めた場合、アメリカが我が国を防衛する事態よりもむしろ我が国がアメリカを防衛せざるを得ない事態の発生が予想され、我が国が負うリスクの増大は不可避である。アメリカは、ここ20年あまりでも、中東でイラク、アフガニスタンなどに対する軍事行動を行っており、今後もそうした軍事行動を行う可能性は排除できないからである。そして、アメリカ防衛のための戦闘参加は、専守防衛、平和主義という我が国が現行憲法の下に培ってきた国是とも整合性が取れない。

(3)我が国の自衛権の行使が、結果的にアメリカの防衛にもつながることはあり得る。例えば、日米両国をターゲットとするミサイルが発射準備に入った場合の当該ミサイル基地への攻撃などである。この場合、我が国に急迫不正の侵害が生じ、我が国を防衛するため、必要最小限度の自衛権を行使するという要件を満たす場合として自衛権行使が許されるのであり、アメリカの防衛そのものを目的とするものではない。

(4)また、日米同盟が、アメリカが一方的に我が国の防衛義務を負う片務的なものであり、これを双務的なものに変えなければ破綻するという政府の意見には与しない。そもそも日米安保条約5条は、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」と規定している。あくまで、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する」と規定されているだけであって、文理上一義的に、アメリカが我が国を防衛するためだけに行動する片務的なものであるということは出来ず、武力攻撃への対処は、両国それぞれの国益に基づく判断に委ねられていると解すべきだ。
 そして、日米安保条約の実質を考えても、その成立の歴史的過程で、東アジア周辺地域における対ソ連のための地域安定化装置の役割を果たしてきた。日米安保は東アジア周辺地域の軍事バランスを安定させるという意味で、アメリカの太平洋における国益の確保に資して来たのである。それは中国による海洋進出が進む現在でも基本的に変化していない。アメリカの国益の確保のためには、東アジア周辺地域における日米の相互連携が必要であり、その相互連携に基づき抑止力を維持していくという点で日米の利害関係は一致しており、我が国が中東などで米軍とともに活動しなければ両国の関係が直ちに崩れるというものではない。アメリカとは、太平洋の盟友として、外交関係を含めた総合的な同盟強化に努めていくべきである。

3 憲法と安全保障をどのように考えるべきか
(1)憲法は不磨の大典ではなく、時代に応じたものに改正していくべきであると考える。しかし、我が国が現行憲法の下で70年近く培ってきた理念は最大限尊重して行くべきだ。我が国憲法における外交防衛関係の理念とは、平和主義、国際協調主義、専守防衛である。政府は、憲法9条の改正を図ろうとしていることが窺えるが、まず改正を基礎づける立法事実の存在が不明確である。現状の国際情勢において、我が国が東アジア周辺地域を離れて軍事行動を行わなければ我が国の存立が脅かされるという事態にまでは至っていない。また、国民の合意形成のプロセスも必要であり、現時点で憲法改正により集団的自衛権の行使に前のめりに踏み込むべきではない。憲法は自国防衛を許容しているというのが歴代政府の取ってきた見解である。
 我が国を取り巻く安全保障環境が変化したことは事実であるが、憲法が許容する自国防衛の枠組みの中で適切に対処していくことは十分可能であり、我が国の防衛体制を深化させていくことと憲法は矛盾しない。一足飛びに他国防衛への道を開く憲法改正によるよりも、まずは現行憲法下での自国防衛の強化で対処すべきである。

(2)憲法をめぐって国民の分断が生じるようなことは避けなければならない。本来、国民の統合のための仕組みとして機能すべき憲法の役割を考えるべきである。イデオロギーによって改憲派、護憲派を峻別する議論に陥ってはならない。戦前の軍部による統帥権の利用のような、一定のイデオロギーに基づいた憲法の利用が行われたことを繰り返してはならない。あくまで我が国の現状と未来を冷静かつ現実的に捉え、イデオロギー的立場を乗り越え、本来国家統合の仕組みであるべき憲法の、そのあるべき姿の検討を行っていくことが必要だ。
 同時に、国家の暴走に歯止めをかけて、国民の権利を保障するという自由主義的憲法観に基づいた立憲主義の徹底を図るべきだ。国民の議論と投票によらない解釈改憲は、国民の憲法改正権の侵害である。

(3)政府与党が、あらためて憲法改正の議論も含めて安保法制の議論を始めるというのなら、堂々と議論を受けて立つ。しかしその議論も、現行憲法をその成立過程から全面的に否定するという前提をとるべきではない。日本国憲法は70年近く我が国の根本規範として国民の支持を得て機能してきた。その下に我が国は繁栄し、平和な社会を築いてきたのである。改正論議を行う場合でも、現行憲法を尊重すべきである。その意味で、アメリカ憲法のように、原文を残したまま、修正条項によって改正を図るといった方法も一つの手段だと考える。

第2 政府提出法案への評価

1 憲法違反の疑義
(1)政府が提出した安保関連法案は、政府の説明では、第1で述べた[2]他国が攻撃されている場合に、自国を守るために行使するもの(他国攻撃・自国防衛のケース)だとされる。しかし、政府が具体例として挙げている中東ホルムズ海峡での機雷掃海については、少なくとも政府の説明を前提とする限り「我が国に急迫不正の侵害が生じ、我が国を防衛するため、必要最小限度の自衛権を行使することは許容される」という自国防衛の要件を満たしているとは言えない。第1でも述べたが、石油タンカー等が通行困難になることが、即我が国に差し迫った国家存亡の危機になることは想定し難いし、我が国の領土領海領空を防衛するための行為と考えることは困難だからである。むしろ、政府が想定するホルムズ海峡の事例は、[3]の他国が攻撃される場合に、他国の防衛を目的としてなされる自衛権の行使(他国攻撃・他国防衛のケース)そのものであると考える。政府は限定的な集団的自衛権の行使に過ぎないと説明しているが、その実態は限定なき集団的自衛権の行使につながりかねないものだ。

(2)この限定容認について、政府が根拠とし、法案と整合的であるとする最高裁砂川事件判決は、日米安保条約は司法審査の対象外だとして判断を回避したものに過ぎず、自国防衛について許容していると読める記述はあるものの、憲法9条の解釈における集団的自衛権の是非については判断していないと読むのが通説であり、根拠とはならないと考える。

(3)昭和47年政府見解では、憲法9条は、必要な自衛の措置を禁じていないとしつつも、必要最小限度の範囲にとどまるべきものであるとした上で、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとした。
 今回、政府は47年見解の「基本的な論理」は維持するとしつつも、結論として集団的自衛権は認められるとしている。しかし、47年見解は結論までを一体とする個別的自衛権に関する論理であり、結論だけ変えて集団的自衛権が認められるとすることは出来ない。

(4)以上から、本法案は、憲法9条に関して積み上げられてきた解釈を逸脱するものであって、合憲とする明確な根拠が無く、少なくとも憲法違反の疑義があるものである。これは、圧倒的多数の憲法学者も賛同するところである。

2 内容・手続き面の問題点
(1)条文上、新3要件は極めて抽象度の高い文言になっており、時の政権の裁量によって適用の範囲が無制限に拡大されてしまう可能性がある。例えば、国民の幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態とは、どのような限界によって画されるのかが不明瞭である。

(2)上記のように、政府が例として挙げているホルムズ海峡での機雷掃海は、直ちに我が国の存立危機にあたる事態とまでは言えない。

(3)10本の改正法案を一括して「平和安全法制整備法案」として国会に提出し、国際平和支援法案と合わせると、実質11もの法案をまとめて審議して一国会で成立を図るという拙速な手続きである。

(4)また、国民への説明が十分になされているとは言えない
(世論調査では「説明不足」とする回答が81%を占めている:共同通信)。具体的には、法案に書かれている存立危機事態への対処のリスク、すなわち自衛隊員が負うリスクや突発的に我が国が紛争に巻き込まれるリスク等について、総理はじめ閣僚が十分な説明を行っていない。本来、法案の説明責任を負うべき政府側が、このような態度を取り続ける限り、いくら審議時間を積み重ねようとも、議論は噛み合わず、十分「議論」したとは言えない。政府の言う「丁寧な説明」とはほど遠いものだ。

(5)それに加え、総理はじめ閣僚は、今回の改正法案の本質についても議論しようとはしていない。改正法案の本質は、先に日米の関係閣僚間で合意された日米新ガイドラインに現れている。日米新ガイドラインの特徴は、機雷掃海を弾道ミサイル迎撃はじめとした自衛隊の役割を拡大し、我が国の負担を増やすことによって同盟の維持・強化を図ろうとしたところにある。改正法案をめぐる議論の本質は、ホルムズ海峡の機雷掃海が我が国の存立危機事態にあたるかどうかということではなく、日米同盟を維持・強化するため、自衛隊がアメリカ軍と世界での共同行動をとることを認めるべきか否かなのである。その是非を問うのなら、当然憲法改正の議論も必要となる。政府がその議論に目をつむる限り、国民に対する説明が果たされたとは言えない。

(6)法案提出までの過程にも問題がある。今回、安保法案の国会提出に先立ち、日米両政府の間で日米ガイドラインの改定の合意が行われ、その直後に、安倍総理がアメリカ連邦議会で演説を行い、安保関連法案を夏までに成立させると約束している。法案を国会に提出し、審議する前に政府が成立を前提とした約束を行うことは、立法機関たる国会を軽視するものであり、三権分立の点から大きな問題がある。また、我が国の安全保障に関する重要課題を、国民のコンセンサスが得られないままなされた他国との「約束」に基づき、結論ありきの国会審議で片付けようとすることは、我が国の民主主義を否定するものである。

(7)以上から、内容・手続き面でも問題があり、政府提出の法案を容認することは出来ない。仮に本法案を成立させようというなら、憲法改正議論が必要である。政府は、速やかに本法案を撤回すべきである。

第3 我が国の安全保障体制整備に向けた提言

1 領域警備法、PKO法、周辺事態法、自衛隊法の組合せによる現実的な対処
(1)政府による今回の改正法案には賛同できない。しかし、我が国に対する現実的な脅威には、責任ある対処を行っていく必要がある。そして、我が国憲法と整合性を取ることができる範囲での国際平和貢献活動にも積極的に取り組んで行く必要がある。さらに、将来起こり得る事態を想定して、対処のフレームワークを構築していくことも必要である。これらの要請に対しては、領域警備法の立法、PKO法、周辺事態法、自衛隊法の改正を行い、これらの法制度を適切に組み合わせることによって、切れ目のない対応を行っていく。

(2)不審船など、より現実的な我が国への脅威に積極的に備える。具体的には、国土交通大臣として尖閣事案に直面した私がまとめた「海上警察権のあり方に関する検討の国土交通大臣基本方針」によりその後海上保安庁の権限と任務の見直しを進め、民主党政権時代に海上保安庁法を改正した。そしてこうした一連の取り組みの成果として、民主党は領域警備法案を作り国会に提出してきた。まずはこの領域警備法を成立させなければならない。これにより、実効的な領海防衛や排他的経済水域の権益確保に努める。領域警備法案は、海上保安庁のような警察機関が効果的な対応のできない可能性のある領域を「領域警備区域」として指定し、その区域における警察機関と自衛隊の連携を法制度化するものであり、それによって、治安出動、海上警備行動を迅速にかつ切れ目なく行えるようにすることにより、自衛隊による平素の領域警備行動等を可能にするものである。近年、我が国の離島や海洋権益が脅かされる事態が生じていることを考えると、それへの対処は中東への派遣などよりも取り組むべき優先度は高い。その点で、領域警備法の制定は急務である。

(3)国際平和貢献活動については、これまで我が国が行ったルワンダ難民やイラク難民への国際救援活動をはじめとした非軍事的な人道支援活動を中心として積極的に取り組んで行く。東ティモールへの選挙監視団派遣に見られるような多様な国際平和貢献にも努める。そして、PKO改正法案を成立させることで、平和維持活動の実効性を高める。PKO活動については、武装解除、動員解除、社会復帰といった平和構築分野の活動のメニューの追加や、宿営地の共同防衛を可能にするための改正を図る。ただし、暴徒等による破壊活動の鎮圧等の治安維持任務は容認しない。暴徒等の鎮圧が戦争状態へと発展する危険性があり、また、そのような事態への対処を我が国憲法が許容しているとは解されないからである。

(4)イラク戦争のように、他国軍隊への協力が必要となる支援活動については、リスクや活動内容などで事案が個別に大きく異なっており、政府提出法案のような際限なき自衛隊の派遣につながりかねない恒久法によるべきではない。イラク特措法のような個別の立法で対処していくべきである。ただし、特措法の制定に迅速かつバランスよく対応できる体制はあらかじめ構築しておく必要がある。事態が発生した場合に、自衛隊の支援活動の必要性と許容性をバランスよく検討することが可能なメンバーで構成される審議会で考慮事項をチェックし、その後迅速に特別委員会で特措法案が審議され国会承認を得て執行されるまでの一連の手続き等を定めた法の整備に取り組んで行く(下記2(3)参照)。

(5)我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対処するためのいわゆる周辺事態法については、政府は地理的範囲を撤廃しようとしているが、これを堅持する。この法律は、我が国への武力行使とまでは言えないが安全保障上重要な影響を与える事態が生じた場合に、自衛隊によるアメリカ軍への後方支援を可能にするものであるが、政府改正案では武力行使と一体化した際限なき米軍への支援に発展する恐れがあるため、これに歯止めをかける必要があるからである。地理的範囲を我が国周辺地域に限った上で、訓練業務や既存の物品及び役務提供の公海上での実施等の支援メニューの追加や、アメリカ軍以外の、例えばオーストラリア軍に対する後方支援をも可能とするなどして、より実効的な周辺事態への対処に努める。避難民支援活動のような軍事的支援にとどまらない活動も盛り込む。

(6)これらの法改正に対応した自衛隊法の改正を行うことで、現実的な対処を図って行く。

2 安全保障に関する基本法(「我が国の防衛・安全保障及び国際平和活動に関する基本法(仮称)」)の制定

(1)我が国の安全保障及び国際平和活動に関する基本的な姿勢を示す基本法を安全保障関連法案の上位法として制定することにより、我が国の安全保障に関する基本的な理念や検討体制等の枠組みを定め、場当たり的ではない切れ目のない安全保障体制の確立を目指す。

(2)基本法では理念として、総合安全保障の推進、武力行使の原則禁止、安全保障に対する国民の理解と民主的統制及び国民の基本的人権の尊重について確認する規定を設ける。

(3)国際平和活動、海外における自衛隊派遣・支援活動については、個々のケースにおいてその時々の国際情勢や我が国にとってのリスク等、状況が様々であるため、政府にフリーハンドを握らせることになりかねない恒久法ではなく、特措法により個々のケースに応じて対応していくこととする。一方で、自衛隊派遣・支援活動の検討の必要性が応じた際に、迅速かつ適正な手続きに基づきその必要性・許容性を判断するフレームワークはあらかじめ準備しておく必要がある。そのフレームワークとして、事態が発生した場合に、政府内での法案検討、国会における法案審議、執行までの一連の手続きについての規定を設け、迅速かつ適正な対応を可能とするよう手続きを整備する。

 具体的には、法案提出は政府が行うこととするが、法案作成の前提となる内容の検討にあたっては、有識者を交えた会議体(「国際平和活動等検討会議(仮称)」)を内閣に設けるものとし、政府は当該会議体の提言を十分に踏まえて法案を作成するものとする。また、会議体の検討メンバーには「必要性」を検討する安保・外交の専門家の他、「許容性」を検討する内閣法制局長官経験者及び複数の憲法学者を入れるようにする等、会議体の構成について、必要性と許容性をバランスよく検討することができる体制を整備する旨を規定する。

 加えて、当該会議体は、国家安全保障に関する重要事項及び重大緊急事態への対処を審議する国家安全保障会議及び内閣官房国家安全保障局と緊密な連携を取るものとする。

 一方、国会との関係については、基本法を議員立法として立法することを前提に、自衛隊海外派遣・支援活動に関する特措法を迅速かつ適切に処理する必要性を踏まえ、国会審議についてのフレームもあらかじめ規定するものとする。具体的には、特措法審議のための特別委員会を設置するものとし、審議開始前に与野党代表者で構成される協議会を設け、政府側から立法事実に関するエビデンスの提示を義務づけ、議院及び各議員の審議権に配慮しつつ、一定の争点整理プロセスの導入を検討する。これにより迅速かつ争点を絞った実質的な審議を可能とする。

(4)我が国への武力攻撃が発生した事態への対処について、武力の行使に関する要件を厳格に定める。具体的には、自衛権発動の要件や外国の領域における武力の行使の制限、国連安全保障理事会への報告、厳格な文民統制の確保についての規定を設ける。

(5)武力攻撃に至らない事態についての対処について、警察機関及び海上保安機関の機能の充実並びに自衛隊との連携の確保その他の必要な施策を国が講ずるものとする規定を設ける。また、新しい脅威としてのサイバー空間を利用した攻撃に対し、攻撃を未然に防止するとともに、攻撃が発生した場合の被害の発生及び拡大を防止するために必要な措置を国が講ずるものとする規定を設ける。

(6)国際的な協力関係の構築、国際社会における法秩序の維持と形成及び発展、軍備管理と軍縮の推進のために必要な施策を国が講ずるものとする規定を設ける。また、国連の活動に対する協力や国際緊急援助活動を推進する旨規定し、国際社会の平和及び安全の維持に貢献することを宣言する。

(7)自衛隊の設置と任務、防衛力の整備及び運用を確認し、自衛隊の位置づけを明確にするとともに、自衛隊は法の支配と文民による統制の下に行動することも明示する。

 こうした安全保障に関する基本法の下に、安全保障環境の変化に即した現実的かつ実効的な関連法案の整備を進めていく。
以上

安全保障に関する見解