第1167号 選べる姓、選べる未来

2025年3月1日 (土) ─

今国会の大きなテーマのひとつに、選択的夫婦別姓制度の導入があります。

 

◆あくまで自由な選択

この問題の本質は、単なる制度改革ではなく、個人の生き方を尊重し、現実的な不利益をなくすための議論であり、国民が自らの意思で生き方を選べる選択肢を増やすという点にあります。結婚に伴い姓を変更する9割以上は女性であり、仕事や生活面での不利益や負担が著しく女性に偏っているのが現状です。 政府は「女性活躍推進」や「男女平等」といったスローガンを掲げはしますが、現実の制度改革にはなかなか手を付けようとしません。

口先だけではなく、まずは誰もが不利益なく選択できる社会の実現に向けた制度改革と、それにともなう現実的な議論を行うべきです。

ここで重要なのは、夫婦別姓があくまで選択制であって、別姓を強制されるものではないということです。反対論には、夫婦別姓によって家族が崩壊するとか、夫婦同姓こそ伝統に沿うなどの意見がありますが、確かな根拠のある主張ではありません。夫婦の姓が同じであることが家族の絆を強めると考える方は、同じ姓を選べば良いですし、逆に別姓でも家族の絆は揺るがないと考える方は、別姓を選択すれば良いのです。全ては夫婦の間の選択です。あえて他の夫婦が新たな選択肢を持つことを否定する必要はないと考えます。

なお、子どもの姓はどうするのかという問題がありますが、夫婦別姓を選択した場合は、子どもが産まれた際に夫婦で話し合って決めることが適切だと考えます。

 

◆変われない日本の象徴

時期尚早で慎重な議論が必要という意見もありますが、では一体いつ結論を出すのかについては答えが示されません。法務省の法制審議会は、1996年に選択的夫婦別姓制度導入を答申しており、改正法案要綱が示されていたにもかかわらず30年間も放置されたままなのです。いまだ導入は時期尚早と言う人は、30年かけて実現しなかった制度を、更に何十年も先送りにするつもりでしょうか。

選択的夫婦別姓案の30年間の停滞は、何か新しい改革案が出されると、弊害だけを挙げてあらゆる根本的な改革を否定してきた「変われない日本」の象徴のような存在だと思います。

 

◆各議員の信念で判断を

立憲民主党は、選択的夫婦別姓制度早期導入を重点政策として掲げてきました。一方、与党内は意見が割れています。公明党は制度導入に前向きですし、自民党内にも様々な意見があり、いわゆる保守系を自称する議員は絶対反対を貫く構えですが、選択別姓に賛同する議員連盟も存在します。残念ながら石破総理は、総理になる前は賛成の発言をしていましたが、今は党内保守系勢力への配慮からか、あいまいな姿勢へと変節してしまいました。

この問題は自民党内の政局に利用されるおそれもあります。長年議論された重要な課題を権力争いの道具にしてしまってはいけません。こうした、価値観が絡む議題には、党の方針で議員の投票を縛る「党議拘束」というものを外した決議が必要ではないかと思います。国会議員はそれぞれが国民の負託を受けています。党が無理やり上から押さえつけるように各議員の投票に拘束をかけるよりも、各議員の信念に基づいた投票に任せる方が、結果的に民意を反映させることにもつながります。

党派を超えた多くの議員の賛同を得て、今国会でなんとしても選択的夫婦別姓制度を導入する法案が成立させなければならないと考えています。

 

 

スタッフ日記「お水取りの100人講」

今年、東大寺二月堂で行われる「お水取り」への準備の一環である「油量り」に、100人講の一員として参加しました。縁があり千年以上の歴史を誇るこの行事に関わることができとても貴重な経験となりました。

「お水取り」は、東大寺の修二会の中でも特に重要な儀式であり、3月12日の深夜に行われる行事です。二月堂の本尊・十一面観音に対し、人々の罪や過ちを懺悔し、国家の安泰と五穀豊穣を祈願するものとして、752年に始まりました。それ以来、一度も途切れることなく続いているというのは驚くべきことです。

「油量り」は、お水取りに必要な灯明の油の量を計測し、準備する大切な役割を担います。二月堂内にて、専用の植物油を1斗缶から木桶に規定の量を注ぎ入れます。3回に分けて1斗3升・1斗2升・1斗を量り入れた油は、黒色の3つの油壺に移し、堂童子さんが封をして礼堂に運び納めます。100人講というのはお水取りを支えるサポーターグループのようなもので、他にも松明を作って納める講や竹笹を納める講などがあります。

様々な準備をあえて細分化して、各々の負担を軽微なものにしつつ、どこかの講が無くなってしまっても「お水取り」そのものは存続できるようにこの形をとっているようです。

現代では、これほど多くの人々が一つの目的のために協力し、役割を果たす機会は少なくなっています。しかし、千年以上前から続くこの儀式では、参加者一人ひとりが大切な役割を持ち、それが歴史の継承につながっているのです。今回の経験を通じ、伝統を守り続けることの意義、そしてそれを支える人々の努力に改めて敬意を抱きましたし、この貴重な体験を忘れることなく、若い世代に幅広く伝え残していかないといけないと強く感じました。

(テン)

 

 

 

 

 

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