陸側遮水壁の見送り

2011年10月31日 (月) ─

 福島第一原発の地下水への放射性物質漏えいについては、補佐官時代にもっとも危機感を抱き、サイト全体をバスタブのように地中壁で囲んで遮断することをl強く主張してきたものである。

 ・・・が、しかし。

「東京電力は26日、福島第1原発から出た放射性汚染水の地下水への流出を防ぐ遮水壁(地下ダム)を1~4号機の陸側に設置するのは「効果がない」として見送り、海側のみに設けることを決めた。工事は28日から着手する。」(毎日新聞)

 また、こんな話になってしまっているのか...。情けなさと怒りがこみ上げる。

 福島第一原発では、現在も建屋内に滞留した汚染水が地下水位とほぼ同じ水位となっており、事実上建屋が地下水に水没した状態にある。

 このため、地下水位の増減あるいは拡散効果によって、建屋内滞留水(汚染水)は地下水へ継続的に流出している。

 水頭差がない(地下水と建屋内滞留水の水位が同じ)がゆえに、バランスしているように見えるが、当然汚染濃度の高い汚染水からの拡散によって放射性物質の流出は今もあると考えるべきである。

 かねて主張してきたように短期的には遮水壁の整備が急がれるところだが、目指すべき状態は、建屋地下の汚染水を完全に排除し、物理的に封じ込めることであり、そのためには建屋内地下の汚染水の処理に合わせて地下水位を下げ、地下水の建屋内への流入を防ぐ必要がある。

 地下水位を下げるために、陸側の遮水壁の整備や建屋周囲のサブドレイン(くみ上げ井戸)の活用を補佐官時代から強く提案してきたところだが、依然としてその検討が先送りされたままで陸側遮水壁を設置すべきではないと結論づけることは早計であると言わざるを得ない。

 なお一方、現時点で圧力容器から溶け落ちた燃料が、地下水によって冷却されているという可能性が否定できない以上、安易に地下水位を下げることはできない。したがって先に行うべきは、溶けた燃料の位置の特定することだ。

 東電公表資料では、地下水の流れは、建屋周りの水理地質構造から、山側から海側に一方向に向かって流れるため、建屋周りの地下水は四方に流出することなく必ず海側に向かって流れることになる、と断言している。

 しかしながら、これはあくまで地層条件などを仮定した理想的なシミュレーションの結果に過ぎず、実際の地下の構造は複雑であり、理想的に一様に流れるわけではない。

 また、地下水の流れにかかわらず、汚染物質は拡散効果により四方八方に広がっていく可能性を考慮すべきだ。

 まず、地下水がどのように流れているのか、面的かつ広範囲にトレーサ調査など最新の調査手法により調査すべきではないか。さらに、地下水の汚染物質の拡散状況についても、建屋周囲のサブドレンだけでなく、広範囲に継続的に調査すべきだ。

 遮水壁の整備には時間がかかるため、流出が確認されてから慌てて遮水壁の整備を開始することは手遅れとなる。やはり、危険性がある以上、陸側の遮水壁についても海側に引き続き整備すべきだと、僕は思っている。

 補佐官当時にも、東電内で密かにささやかれてたと言われている資金の問題があるのかもしれないが、もはやそんなことで許されることではない。

陸側遮水壁の見送り