遠出のステーキ

2007年1月20日 (土) ─

 二期目となって応援や何やかやと遠方に出かけることが多い。

 そんな時にふと思い出すことがある。

 浪人時代、応援など頼まれるはずもなかったころ、毎日毎日選挙区内をぐるぐる回ってばかりの日々、訪ねる度に「次もしんどいな!」などと、励ましか揶揄かわからない言葉をかけ続けられる中、「あーっ!、イヤだっ!」と選挙区を離れたい衝動に駆られる瞬間がある。

 もちろん、それは自分の弱さの何ものでもないのだが、人は弱いものである。いっとき、耐えられなくなる。

 でも歯を食いしばって、頑張るしかないんだと自らに言い聞かせながらも、フラフラだったのが浪人の時代であった。

 当時、元部下のヤスとヒロコと三人しか外に出る人間がいない中、どれほどまでにそのストレスに苛まれたか、といまだに新たな事務所員に語ってしまう。それほど、そのときの経験は強烈であった。

 地元を離れる機会など皆無と言ってよかった。

 今のように「来てくれ」との依頼などあろうはずがない。ましてや誰も来てももらえない。そんな時に、たまたま遠方に出かける機会があるとホッとしたものだった。ヤスと二人で、愛車のワゴンRで遠方に車を走らせながらも、唯一、選挙区を離れられる息抜きのひと時でもあった。

 そして、車を三時間近く走らせる遠出の行程の時にはヤスに「チョット、贅沢しょーかーっ!」とばかりに、ファミレスのステーキ屋で「肉」を食べるのが唯一の楽しみであった。

 運転するヤスから、「肉、食わせろー!」と騒がれながら、「わかった、わかった!、よっしゃー、肉食うかー!」とファミレスのステーキ屋(当時はフォルクスだったかな?)に駆け込んだものである。

 一日の食費は、朝から夜食までも含めて千円以内と決めていた二人にとって、思い切った贅沢であったが、遠出までした一日の仕事の自分へのご褒美とばかりに、肉をほお張った日が懐かしい。

 そんな話をトシに伝えながら、ふと当時を思い出して「肉、食うかぁー!?」と同じくステーキ専門(かな?、「ステーキどん」って!?)のファミレスに入る。

 「うまいっすねぇー!」とパクつくトシを見て、浪人当時がよみがえりヤスと一緒にサーロインステーキを食べた瞬間がフラッシュバックする。「ウン!ウン!」とうなずきながらも今日に感謝と共に、胸が詰まる。

 「どうしたんすか?、もう食えへんのですか?」とたずねるトシに、おう、食うてくれと皿から分けとる。

 人は、ささやかな喜びにこれほどまでに幸せを感じる。

遠出のステーキ