日銀の独立性

2006年11月10日 (金) ─

 久しぶりの日銀総裁への質疑の機会。

 デフレ脱却宣言、利上げのタイミングやインフレターゲッティングなど金融政策について聞きたいことは山ほどあるが今回は、改めて日銀の独立性を脅かすような与党の発言について質疑。

 10月13日に行われた安倍政権としては初の「経済財政諮問会議」。ここで、民間委員も含めて安倍政権の掲げる「成長路線」についての議論がなされたのであるがその場での日銀福井総裁の発言に、中川秀直自民党幹事長が噛み付いた。

 福井総裁は、諮問会議民間議員の提言にある「成長なくして未来なし」という理念に「私も基本的に賛成である」と述べた上で、成長戦略が「耳障りに良すぎないか?」と語った。イノベーション、オープン化によって実行されるプログラムは決して甘い課題ではないとした上で「成長の実現までにまず時間がかかる」と指摘した。

 また、さらにイノベーションを進める上で、「イノベーションを身につけた人と、イノベーションをなかなか身につけられない人との間の所得の差はむしろ、さらに広がる」と警鐘を鳴らしたのである。

 この福井総裁の発言に中川幹事長は「成長のメインエンジンにブレーキが組み込まれていることはあってはならない」として福井総裁の発言に対して「単なる経済政策議論を超えた政治的意味合いを含んでいる可能性があるのか。ないのか。」と唱えている。さらに「安倍首相との意見の相違があるのか。ないのか。」とも重ねる。

 その上で、成長戦略や格差問題について「管轄外の日銀側から忌憚のない意見が出た。次は政府と日銀の間で名目成長率について忌憚のない意見交換が行われるべき」と言及した。

 これは、完全に与党の中枢にいる幹部からの日銀へのけん制に他ならないのではないか。

 福井総裁は、インフレターゲッティングに慎重姿勢を崩さない。一方、中川幹事長は自著の「上げ潮の時代」にも、世界で「物価安定目標」を明確にしているのは日本とアメリカだけで、そのアメリカもFRBバーナンキ議長はインフレターゲッティング推進論者だから、早晩日本だけになってしまうかもしれない、金融政策は極めて重要で政府と目標を共有できる中央銀行が必要だと論じる。そして「日本では、この原則が必ずしも理解されていない」、「どうも理解が進まない」と指摘している。

 誰の理解が進まないのか?。この文脈からは、日銀以外にない。つまり、福井総裁に対して厳しく「理解せよ」と発信しているのである。

 このような考え方があるのはかまわないが、与党の幹事長の立場で、極めて政治的に重い立場にいる方が、経済財政諮問会議での自由闊達な意見に楔をさすような発言はいかがなものだろうか。

 もちろん、福井総裁はこのような中川幹事長の発信に対しても、幅広い議論を重ねたいと応えている。

 しかし、福井総裁が忸怩たる思いでいるのは間違いないだろう。事実、福井総裁はこの火曜日の都内の講演で政府と日銀の役割について「明確に分かれている」と述べ、経済財政諮問会議の位置づけと日銀の金融政策決定会合の位置づけも「両者のコミュニケーションが円滑に行われるように出来上がっている」と述べられている。

 決して総裁の発言は、「ブレーキ」とはなりえないしコミュニケーションの場の経済財政諮問会議の位置づけはなんら問題ない。

 むしろ、このようなかたちで圧力をかけているかのような幹事長の発言の方がむしろ問題である。

 日銀の独立性をしっかり守り、そして福井総裁も自身の襟を正していただきたいと思う。

日銀の独立性