政治主導の一手法

2011年1月22日 (土) ─

 国交省も新たな大臣を迎え、始動しだした。

 元副大臣、前大臣として、一年四か月間「草鞋を脱いだ」役所への感謝の想いとともにその間に手がけた施策、あるいは政治主導については記録として残しておかなければならないと思っている。

 一年間の副大臣時代は大臣を支える立場から、マスコミへの発信は控えてきた。また四か月間の大臣時代は、役所を代表する立場として行政の継続性を考慮しながら整合性を図り、政府全体、党との調整も丁寧に行いつつ、施策の実行を図ってきた。立場上、なかなか、踏み込んで言えないこともあったが、今やそのような心配はない。

 詳細を記そうとすると膨大になってしまうので、エッセンスを少しずつ開示していきたいと思っている。

 まずは、政治主導実現のための一方策である「政策審議室」について。

 これは、野党時代からの構想だった。大臣が、官僚の言いなりにならないように、自らの判断を行うためのスタッフ機能の強化は必須だと思っていた。

 例えば検討を指示しても、原局原課から上がってくる検討事項がA案、B案、C案とそれぞれ「誰が見ても認められないもの」、「中程度のもの」、「理想論過ぎるもの」などの三種類だったら自ずとB案に落ち着く。このB案が官僚の考える落としどころの場合、大臣に選択の余地はなくなってしまう。

 こうした事例を、道路公団民営化議論時に多く目にした。

 大臣周りにいわゆる、経営企画室的な組織を持たないといけない。それも、できるだけ自前で人員を揃えられるようにしなければいけない。

 実は、かつて舛添厚労相が大臣政策室というものを作った例があった。僕は野党時代、この制度を詳細に検証した。おそらく舛添大臣も僕と同じ問題意識だったと思うのだが、制度設計で根本的なところを抑えきれなかった。致命的な課題を残したと言っても良い。大臣政策室の室長を「秘書官」としたことだった。舛添大臣はそこは室長に政務の秘書官を充てていたが、大臣自らの指示が保ちえない可能性を残した組織だった。

 これでは、大臣の意思を明確に反映することが「微妙に」困難になる。

 この問題意識から、政務三役政策審議室の室長は大臣自らとする訓令を書いて政権交代前に用意した。

 訓令にしたのは、各省設置法や組織編成とすると時間がかかりすぎるとの判断からだった。ちなみに、厚労省のそれは「大臣伺い定め」とする訓令手続きだった。

 役所の課長級職前の若手を、政務三役あるいは大臣自らが一本釣りで登用し、原局原課からの政策チェック、あるいは大臣指示を的確に行う政策担当秘書官役を委ねた。

 国交省の場合、大臣秘書官は通例、「事務取扱い」として旧建設省系、旧運輸省系から一名ずつ配置される。これにより、大臣官房は建設系、運輸系での大臣周りの情報管理が可能になる。多岐にわたる大臣業務の円滑な執行のためには、そのこと自体を否定するものではないが、いかんせん滞りが発生する。

 また、秘書官は国会含めて大臣のロジ回りの仕事も膨大にある。したがって、政策マターを二人の秘書官ですべて行うというのは負担がかかりすぎる。

 こうして政策審議室が設置され、僕は大臣として十名の政策官を指名し実質の政策担当秘書官として特定のミッションを与えることにした。

 十名は一テーマにつき、三名のチームに編成した。リーダー、サブリーダー、補佐として、それぞれがあるテーマではリーダー、別のテーマではサブリーダーというプロジェクト型編成とした。

 一切の予断を持たずに行うダムの再検証と同時にダム建設の前提となる基本高水の検討含めた八ツ場ダム問題の対応、無料化の最終形と財源問題の検討や料金制度の整理、ネットワークのあり方の抜本的見直しを含む道路問題、三年間の改革集中期間に行う空港経営の在り方の検討やオープンスカイ戦略、さらにはJAL問題といった国民的関心の高いテーマ対応をはじめ、骨太課題の社会資本整備重点計画の抜本的見直しとその車の両輪となる交通基本計画を規定する交通基本法の検討、地方の再生を念頭に置いた建設産業市場の再構築のための戦略的取り組み、資産デフレ脱却・不動産市場の活性化を目指しての不動産投資市場のグランドデザイン再構築、建築確認の迅速化・簡素化を目指した建築基準法の見直しと同時に建築基本法の議論、観光産業の活性化のための休暇分散化の現実的な対応、温暖化対策の定量把握のための検討、建設・運輸の公共事業の基本となる将来交通需要推計の統合と事業評価の見直しの完遂、など政策審議室におけるサバキのマターは多岐にわたった。

 審議室を大臣室の隣に設置したのも大きい。

 当初は大臣室の壁をぶち抜いて、大部屋にせよと官房長に言ったのだがお金がかかりすぎるということであきらめた。そこで政務官室を空けて審議室を置き常時大臣室のドアから直接出入り可能、話ができるようにした。

 こうした機能強化は、短い間だったが手応え十分だった。

 今後、政府として官僚機構との円滑な関係を構築することも含めて新たな取り組みが求められる。さまざまな立場で、新たな政治主導への取り組みが試されるであろう。

 官僚と政治家が、この国のために力を合わせて全力で突き進むことを心から願っている。

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