復興特別法人税廃止を考える

2013年10月4日 (金) ─

 4月に消費税率3%引き上げの閣議決定がなされ、いよいよ消費増税に対する様々な動きが報じられるようになった。既に住宅取得などは10月より新税率が前提となる。

 このような状況の中で、当然懸念されるのは景気回復への足かせである。

 そこで登場したのが復興特別法人税の廃止前倒し。すなわち、法人への減税措置だ。この復興特別法人税の廃止について考えてみたい。

 まず、復興増税の中味を整理すると以下の通りだ。

 復興特別法人税は、平成24年4月1日から3年間の事業に対し課税するものだ。法人税減税(恒久的な措置)を実施した上で、税額の10%を追加的に徴税するもので26年度予算では9145億円見積もられており、GDP比で0.2%弱となる。

 復興特別所得税は、平成25年から平成49年までの25年間、基準所得税額に2.1%乗じて算出する金額となる。そして26年度予算では3095億円見積もられており、GDP比で0.05%強ほどとなる。

 その他に、地方税について、平成26年度から35年度まで10年間、住民税の均等割について道府県民税、市町村民税を各500円(計1000円)を加算するとされている。

 一方、消費税増税は、2014年度は3%とGDP比1.5%程度であり、かつ恒久的な引上げだ。

 そこで、かつて僕が現代ビジネス2013年6月4日に寄稿したシナリオCを一つ参考にしたい。
2013年6月4日現代ビジネス 馬淵澄夫「消費増税に関する今後のシナリオ―97年の財政再建の失敗を繰り返さないために」

———-以下抜粋

【シナリオC: 予定通りの消費税率引上げ実施と複数年間の大胆な低所得者対策の実施】

 AとBのシナリオの折衷案となるのが、消費税率の引上げを予定通り実施しつつ、大胆な財政政策を実施だ。先述したように復興需要などの機動的な財政政策のエンジンが停止する。

 また、消費税率の引上げは低所得者層を中心に打撃を与えることとなる。

 そこで、消費税率を引上げる26年度以降、例えば5年間にわたり給付金などの形でGDP比1%程度(5兆円)の大胆な低所得者対策を実施し、軟着陸を図ることも一つだ。

 毎年5兆円などとんでもない規模だと思われるかもしれないが、2014年にGDP比で1.5%、約7.5兆円の消費税引き上げ、2015年にGDP比で1%、約5兆円の消費税引き上げのため(合計12.5兆円)、2016年以降は、12.5兆円、現在よりも税収が増えることになるのだから、もちろん景気の情勢を見ながらではあるが、毎年5兆円程度、給付をしても全体で見れば、「十分な増税」となる。

------抜粋終了

 規模の観点から言えば、消費税増税の引き上げに比して、復興特別法人税の廃止の規模は小さすぎるということに尽きる。さらに、消費税増税が恒久増税に対し、復興特別法人税は26年度には終了する増税だ。

 また、復興特別法人税の廃止は、そもそも利益を出している比較的業績が好調な法人が対象であり、納税している企業はおそらく大企業に偏っていると思われる。したがって、仮に、「廃止により給与の増加に結びつく」という論理を受け入れたとしても、対象となる家計は比較的、所得が安定している層だと考えられる。

 一方、「消費税率の引上げは低所得者層を中心に打撃を与える」ことになる。復興特別法人税の廃止は、本来対策が必要な対象とは異なる者に恩恵がある税を減税することになるのだ。

 全体の消費税増税に対策が見えていない中で、議論が難しいところではあるが、ポイントは、「対象と規模そして継続性」だ。少なくとも復興特別法人税の廃止は、対象、規模は、不釣り合い、継続性は無いということになる。

 法人税で議論をするのであれば、継続性の観点から、恒久的な法人税減税まで踏み込む必要があり、対象で議論をするのであれば、復興特別所得税、住民税の廃止がまずは必要と言うことではないか。

 さらに、対象に関して議論を深めるのであれば、所得税は、そもそもある程度所得がある家計が対象になることから、低所得者層に対する継続的な給付措置まで踏み込む必要がある。

 つまり、そもそも附則の18条を満たしていないようにも見える状況の中で引き上げを決定した以上は、上述のシナリオCを検討しなければならないということになる。

 政府・与党はこの復興特別法人税の廃止については、年末までに賃金上昇につながることを前提に検討するとしたが、賃金引上げに反映されるか否かではない。

 本来対象とすべき層に実質的な効果があるかが問われているのだ。

 「対象と規模と継続性」。これに尽きる。

復興特別法人税廃止を考える