増税議論に際しての整理

2011年12月22日 (木) ─

 増税議論が佳境なのだが、社会保障の中身については給付の拡大については前向きで、一方削減についてはどんどん先送りされていることに対する経済界の不満は大きい。

 本来行うべき給付の見直しが十分に行われず聖域化されていることに対して、結局保険料負担増となれば国民と事業者が背負うことになり、増税で景気後退が懸念される中での国民と併せて事業者の不安は相当大きい。

 更に若年世代にしてみれば、ないがしろにされている感は極めて強い。当然と言えば当然だが、社会保障改革を議論している当局・霞が関内ですら世代間での温度差が歴然としている、と担当の役人がぼやいていた。

 再度改めて、社会保障の全体像を見直さなくてはならないのは明らかだ。

 そして、かねてより増税を主張してやまない野田さんが、民主的プロセスである代表選で選ばれて総理となってそれを推進するのは当然だろう。

 もちろん、デフレ脱却と景気回復を最優先とする僕とはまったく考えが違う。しかし、その自らの訴えは代表選で圧倒的な完敗という結果で退けられたのだ。

 したがって僕が今できることは、あの8月29日からの時の流れにより、近い将来に起きるかもしれない外的環境要因の変化による経済危機下での対応をどうするかを考えることだと思っている。
 
 そしてそれこそ、野田さんが代表選でも金科玉条のように掲げていた法定(所得税法等の一部を改正する法律附則第104条)されている年度内の「必要な法制上の措置」の仕組み規定である「景気回復過程の状況、国際経済の動向等を見極め、予期せざる経済変動にも柔軟に対応できる仕組み」に大きくかかわるものなのだ。

 ここで、附則104条に関する考え方と留意点を示したい。

 日本は更なる高齢化に直面することから、税制の抜本改革は必要なことであるが、税制改革により景気が腰折れし、税収が減収となっては、当初の改革の目的を達成しない。そのため、「景気回復過程の状況」や「国際経済の動向」の考え方について、共通の理解を持つことが重要となる。

1.「景気回復過程の状況」の留意点について。
 景気回復過程の状況を見極める上で、日本経済が持続的・自律的な回復過程にあるのかの見極めが重要。これは、税率の引き上げの影響により日本経済に負荷がかかることになるが、持続的・自律的な回復過程にある場合には、負荷を吸収し、経済を安定軌道に戻す復元力が働くが、しかし、仮に駆け込み需要や震災復興などの特殊要因により景気回復の過程にある場合には、税率の引き上げに伴う負荷(駆け込む需要の反動、所得減)により、日本経済が減速したまま景気回復過程に戻らず、税収も上がらないという本末転倒な結果を招くリスクが高まるためだ。

 ここで、日本経済が持続的・自律的な回復過程にあるのか判断する上で、(1)特殊要因の見極め、(2)デフレからの脱却・金融システムの健全性の確認、が必要となる。

(1)特殊要因の見極め(駆け込み需要・復興需要等)
 景気回復過程の状況を判断する上で、持続的・自律的な回復過程に比べ、特殊要因によりどの程度景気が押し上げられているのか、見極めが重要。具体的には、消費税の引き上げ幅にもよるが、耐久消費財や住宅投資を中心に駆け込み需要により、消費税導入前1年間は、一時的な消費ブームが起こる可能性が十分にある。特に消費税率の引き上げ幅が大きい場合には、過熱度合いが高まる可能性が大きい。しかし、増税後、駆け込み需要が剥落し、経済に負の影響が発生する。仮に、日本経済が持続的・自律的な安定軌道に乗っている場合には、増税の負のショックを吸収できる可能性が高いが、駆け込み需要に依存した景気回復過程の場合には、増税後、大きく経済が後退する蓋然性が高まる。

 また、今回の東日本大震災の復旧・復興が遅れているとの指摘がある中で、今後、復興が本格化することにより、公的需要が大きく伸び、成長率も嵩上げされる可能性がある。このような景気回復過程は、復興需要が剥がれ落ちた後に反動減に直面することになる。仮に、そのような状況下で増税を行った場合には、復興需要の剥落とともに日本経済に対し、大きな負荷を与えることになる。

(2)デフレからの脱却・金融システムの健全性の確認
 デフレにより日本経済そのものが脆弱になっていることに留意が必要。具体的には、景気回復において一時的なショックにより景気回復から景気後退局面に陥りやすくなっている。また、金融システムが健全に機能していることが持続的・自律的な景気回復には不可欠。金融システムが健全に機能していない中では、負のショックが増幅され、景気が安定軌道から外れる可能性が大きくなる。

 90年代以降、日本の景気の拡張局面は、2000年代の景気回復を除き、比較的短い期間となっている。97年の消費税増税の繰り返しをおこさないために、デフレでないこと、金融システムが安定していることを確認する必要がある。

 上記のことを留意しながらさらに課題となるのが、「具体的な数値目標の設定の難しさ」である。「景気回復過程」を考える上で、GDP成長率や失業率の具体的な数値で判断することは難しいのではないかと考えられる。

 例えば、実質GDP成長率については、大震災や世界金融危機のような大きなショックが発生した後には、成長率はマイナスになり、その後、比較的高い成長率となる。また、消費税増税前には、駆け込み需要が発生し、高い成長率を達成することになる。つまり、高い成長率は持続的・自律的な日本経済の景気回復過程を意味していない。

 また、失業率は景気に対し遅行的な指標のため、失業率が改善しているときには、すでに経済がピークを迎えている可能性がある。さらに、失業率は分子が完全失業者数、分母が労働人口となるが、失業者が職探しをあきらめた場合、失業者数が減少し、失業率が一時的に改善する場合があることが指摘されている。

 こう考えると、景気回復過程の指標をどう考えるかということにも相当の注意が必要だ。

2.「国際経済の動向」の留意点について
 税制改革の実施前後に海外経済が順調に推移していることは極めて重要。特に、改革実施後に耐久消費財を中心に消費の反動減が予見される中、日本経済が持続的・自律的な景気回復過程にあるためには、海外の景気が安定し外需が順調に推移していることが必要となる。例えば、97年の消費税引き上げ後の97年夏にアジア通貨危機が発生し、日本経済に大きな負のショックをもたらした。仮にアジア通貨危機がなければ、97年の日本の金融危機も別な姿になっていた可能性がある。

 世界金融危機についても、震源地は米国や英国などの欧米諸国であったが、欧米諸国の外需の大幅な減少を通じて生産が急落し、失業率が急速に高まるなど、日本の景気が大きく落ち込んだことは記憶に新しい。また、経済のグローバル化が進む中で、海外で発生した金融危機は、瞬時に伝播し日本の金融システム不安をもたらす可能性がある。

 これらを踏まえると、「国際経済の動向」に対し細心注意を払う必要がある。具体的には、国際機関が発表する世界経済見通しをもとに、慎重に世界経済の動向を見極める必要がある。

 このような考えのもとに、円高・欧州危機等対応研究会を発足したのだが、いずれにせよ上記二項については具体策を示していかなければならない。

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