凍土壁ギブアップ宣言

2016年7月25日 (月) ─

 とうとう。というか、やっぱりな…。

 東京電力は7月19日、原子力規制委員会の有識者会合で、今年3月31日に凍結が開始されていた福島第一原発の凍土遮水壁について、完全に凍結させることは難しいとの見解を示した。

 凍土遮水壁とは、凍結管を打ち込んで地中を凍らせることで、原子炉建屋への地下水の流入を遮断しようとするもの。東電は凍結開始前の計画において、「遮水壁の閉合の進め方」として、段階を3段階に分け、最終段階である第3段階において、「完全閉合する段階」としていた。つまりは、原子炉建屋の周囲を凍土遮水壁で完全にブロックし、地下水流入を止める計画だったはずだ。

 しかし、5月下旬には、凍結開始から1カ月半以上経過しても土壌の温度が下がりきらず、計測地点の約1割で凍っていないとみられることが判明した。東電は、特に温度が高い場所は今後も凍らない可能性が高いとして、原子力規制委員会に追加工事をする方針を伝え、凍りきらずに壁に穴が開いたようになっている部分を、セメントを流し込むなどしてふさぐ追加工事を行っていた。

 このような泥縄の手立ての中で、7月19日の会合で、規制委員会に凍土遮水壁について問われた東電は、「100%凍らせる、100%水が通らない状況を作れるかというと、技術的にそんなことを考えているわけではなくて、我々は凍土壁を作ることで流入量の抑制を目的にしています」、「完全に閉合することは考えていない」と説明しだした。

 東電側の言い分としては、地下水の流入量を減らすという目的自体に変更はないということなのであろう。しかし、これでは、「当初完全閉合を目指していたが、思い通りに凍結が進展せず、追加工事の結果もおもわしくなくて、最終的に完全凍結を諦めざるを得なかった」と受け止められるのは当然だ。

 そして私がかねてより指摘してきたことだが、凍土壁の遮水効果そのものにも、さらに疑問符がついている。もともと、建屋内には一日400トンもの地下水が流入していると見られていたが、東電によると、凍結開始後の第一原発海側の一日当たりの地下水くみ上げ量は、5月が352トンに対し、6月が平均321トンで、減ってはいるものの、凍土壁の十分な効果は確認できていない。

 原子力規制委員会の検討会も、凍土壁の効果がいまだ見られないとして、東電に高濃度汚染水処理のタンク保管などの別の対策の検討を要請している。規制委員会側も、凍土壁の効果はもやは信用していないと言って良いだろう。

 私は凍土壁構想が始まった時点から、土木技術者の立場としてその実効性に疑問を持ち、国会質疑でも何回も取り上げてきた。

 地下水はとどまっておらず、流れている。

 凍土工法は、掘削時の土の崩落を防ぐための工法で、完全止水が目的ではない。このような凍土工法が、今回の地下水の汚染対策に使われようとしていることに対して、私は本当に大丈夫なのかと繰り返し政府に問いただしてきたのだ。さらに、凍土遮水壁が選ばれた理由の一つは、埋設物に物理的な変形や撤去等の措置を行う必要がなく、破損等で汚染水流出が発生しない施工方式だったことによるのだが、実際の工事では、凍結管を地中の埋設物に貫通させる貫通施工が採られた。このような施工が十分効果を上げたかは疑問である。結果として、当初からの私の指摘通り、凍土壁構想は失敗に終わりつつあるというのが現状だ。

 凍土壁工事には、すでに350億円もの費用が費やされている。しかも今後凍土壁を維持するためには、電気代だけで年間20億円が必要との試算もある。汚染水問題は依然として緊急の国家的課題であり、費用対効果が小さく、実効性が乏しいと判断されれば、即座に対応策の方針転換を図るべき。規制委員会検討会において、外部専門家も、「完全に止水可能な既往技術によるコンクリート等連続遮水壁の計画を進めるべき」とコメントしてきた。

 もう、ギブアップ。責任の所在を明らかにし、その上で在来工法にいち早く切り替えるしかない。

 そして、このような事態に陥った責任の所在は、東電のみならず、実施に踏み切った2013年当時の経産大臣にも当然ながらにあり、所管行政責任者として相当に重いと言わざるを得ない。

凍土壁ギブアップ宣言