バックエンド問題

2011年8月5日 (金) ─

 原発事故の収束にあたってきた者として、脱・原発依存の話はいたるところでしてきたが、原子力政策を語るうえでもう一つ重要なことは「バックエンド問題」である。

 仮に原発をゼロにするといっても、使用済核燃料はすでに発生しており、使用済核燃料を再処理するという核燃料サイクル路線を今後どうするかという問題は本来は別の問題である。したがって、このバックエンド問題も国民的合意が必要な極めて重要な課題である。

 使用済核燃料の取り扱いに関する選択肢は「再処理」、「直接処分」、「中間貯蔵(Wait & See)」の三つ。これらのすべての情報を明らかにした上で現在の核燃料サイクル事業に関する状況、技術動向、国際環境、環境に与える影響、後世への負荷などを総合的に勘案して、判断すべきである。「バックエンド問題」を先延ばしにせず、現時点で国としてのスタンスを改めて判断すべきである。

 米国もオバマ政権において、ブッシュ政権以来続いていた核燃料サイクル技術の発展促進プログラム「先進的核燃料サイクル・イニシアティブ(AFCI)」の名称を変更して、基礎的な研究開発を重視することとして核燃料サイクル全体の将来戦略を検討するための新たな委員会を設置した。去る7月29日にはその中間報告がなされ、「直接処分」から「中間貯蔵」へと方針転換を発表した。

 一方、日本での再処理技術は1945年に米国で開発された比較的古い技術である湿式処理のピューレックス法が採用されている。東海村や六ヶ所での再処理技術がこれで、高燃焼使用済核燃料やMOX燃料、FBR燃料には対応困難な技術である。

 これに対し、日本原子力研究開発機構では、改良ピューレックス法を実施している。また、同じ湿式でもウラン、プルトニウム、TRUを段階的に抽出するユーレックス法などは米国が推進しているが、より強力に米国が進めているのは乾式の高温化学乾式処理法などである。

 このように、再処理技術においても我が国は遅れている状況の中で、米国はさらに「直接処分」、「再処理」ではなく「中間貯蔵」へと方針を変えて行っているのである。

 ある意味「バックエンド問題」でも半周遅れどころか、数周回遅れの感すらある。

 したがって、原子力に対して国民的関心が高い今こそ、このバックエンド問題を見直すべき時である。

 現時点では、各原発における使用済核燃料の貯蔵容量は、燃料プールのリラッキングなどにより余裕がある。まずは、核燃サイクル路線を凍結したうえで、1年ないしは2年でバックエンド問題の結論を導く決断が求められる。

 福島の教訓を生かしながら、事態対処だけではなく今後の原子力政策の転換についても、我が国が高い見識と国民的コンセンサスをもって臨まなければならない時が目の前に迫っている。

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