ケースバイケースアプローチ

2013年12月4日 (水) ─

 特定秘密保護法案の強行採決で臨時国会は会期末を目前に控えて緊迫してきたが、早々に今国会審議を見送られた原子力協定については、各党ともに結論が出そろっていない状況だ。

 法案が継続審議と判断された段階で、党内議論も低調となったやに思うが、この原子力協定の問題点とされている点については自分なりの見解を記しておきたい。

 今国会に提出されているのは「日・アラブ首長国連邦原子力協定」と「日・トルコ原子力協定」の二案。問題視されているのは、日・トルコ協定のほうだ。

 今年の5月に安倍総理がトルコを訪問、協約に署名した。その際、トルコは、日本企業に排他的交渉権を付与。原子炉建設についての商業契約は、10月29日に安倍総理がトルコを訪問し、首脳会談を行った際、日本企業が大枠で合意した。国会審議は10月25日に国会提出されたが、特定秘密法案審議を優先し、大臣がそちらにとられたため委員会に付託されないまま今日に至っている。

 民主党内では、外務部門会議で政府ヒアリングを行ったが、委員会審議・採決の日程が見えず、部会での議論は止まったまま。前回のヒアリングでは、外務省の説明が不十分なため、再度ヒアリングを予定している状況だ。

 様々な方面から日・トルコ協定の問題点として指摘されているのが、第8条に定められている核物質の濃縮・再処理の規制についての規定だ。

 ここでは、「両締約国政府が書面により合意する場合に限り」、「トルコ共和国の管轄内において、濃縮しまたは再処理することができる」としている。

 日・UAE協定では、「管轄内において、濃縮され、又は再処理されない」と明記されているのに対して、トルコとの協定では、一見、濃縮・再処理を認めるような記述が問題だと指摘されている。

 この一文によって、日本政府との文書合意でトルコでも濃縮・再処理を行うことが可能になることを懸念する声がある。また、第2条3では、核物質の濃縮・再処理技術等の移転規制について日・トルコ協定では「移転することを可能にするような改正が行われた場合に限り」「移転することができる」となっている。

 また上記「技術等」には「設備並びにプルトニウム」を含む。これにより、プルトニウムを含む使用済燃料等の我が国への移転が可能となることを懸念する声もある。

 もちろん、これまでにも予算委員会などでこの問題について政府は「(トルコによる核物質の濃縮・再処理、プルトニウム等の移転について)我が国は認めることはない」と再三答弁しているのだが、日・UAE協定には書かれていないことが日・トルコ協定には書かれているのだから、疑われるのも無理はない。

 もちろん、自分の考え方としてもそもそも「核燃サイクル」はフィクションでしかないのだから外国からの使用済核燃料の移転などあってはならないと思っている。しかし、このような協定の締結は十分に起こり得るだろうということも一方で思うのである。

 2012年4月、ワシントンで当時のバーンズ国務副長官との会談を行ったときに、僕はアメリカ側の原子力協定に関する意思について確認したことがある。

 2012年1月10日、ダニエル・ポネマンエネルギー省副長官とエレン・トーシャー国務省軍備管理国際安全保障担当次官の両名連名により米議会に1通のレターが出された。このレターは当時の米国とベトナムの原子力協定締結に向けた米政府のスタンスを示したものだ。

 ここでは、米政府は、将来の原子力協定におけるウラン濃縮と再処理(ENR)に関して、「核拡散のリスクの増大なく平和的な原子力利用の推進がゴールであり、この達成のための最善の方法は、ケースバイケースで考えることを基本に原子力協定交渉を追求することである、と結論付けた。」と記している。

 この文書をエネルギー省(DOE)と国務省(DOS)が出していることに大いに興味を持った。ウラン濃縮と再処理を一切認めないというアメリカの「ゴールデンルール」が変化を示しているのか?バーンズ国務副長官のワシントン訪問時のこの問いに対する答えは、当然ながら国務省として核不拡散について高い関心を持っている、ウラン濃縮と再処理については各国の可能性を排除するものではないが、一般的には核不拡散の観点から止めていかねばならないものと考えている、というものだった。

 国務省は核不拡散の観点から濃縮・再処理を認めたくない、一方でエネルギー省はポネマン・トーシャーレターにも書かれているが、原子力産業の保護育成と雇用の確保のためにも様々な判断を可能なものとするとしている。

 つまりは「ケースバイケース」と米政府が語ることによって、国務省とエネルギー省の両者の利益をいかようにも取れ得るようにしているということだと理解した。

 両天秤と言うと聞こえが悪いかもしれないが、ビジネスオリエンテッドな社会であるアメリカらしいとも言える説明でもある。この「ケースバイケース」アプローチに一見似たような取り組みで進めようとしているのが、今回の日・トルコ協定だと僕は感じる。

 しかし、米国のように原子力産業の推進という明確な方向性を未だ持つような状況にはないと思われる我が国の状況下で、米国の「ケースバイケース」アプローチを真似た、商業上の方便が許されるかどうかは、まったく別物ではないか、と強く懸念するところでもある。

 いずれにせよ、来年の通常国会での重要課題の一つである。

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