「限定」解除

2008年10月28日 (火) ─

 日曜日に次女のりいなの彼氏が半年振りに我が家にやってきた。

 実は春先に、娘が門限を破ったので理由を聞くと二人で時間が経つのを忘れていたという。

 正直、高校生のころの自分を思い出せば、彼女と喫茶店で何時間も話し込んだりしたことあったっけ、と納得してしまう自分もいる。しかし、大家族で暮らす我が家としては家族全員がそれぞれの役割を担っているからひとりだけ勝手は許されない。

 約束は絶対だ。破れば当然その責を負う。このままで済ますわけにはいかない、と双方二人(彼氏と娘)から話を聞くことにした。

 あわてて彼氏がやってきた。ガチガチに緊張した彼氏と半べそかいている娘の二人は、正直に非を認め謝った。

 ヒロコと僕の二人は、お互いにまじめに考えているのならもっとお互いを思いやってお付き合いしなければ双方の親からも信頼は得られない、という意味のことを言った。そして、親としては娘に約束を破った「けじめ」をつけなさいと言った。

 結局、高三の娘の進路が決まるまで、二人は一切会わない、電話もしない、メールもしない、連絡はお互い手紙だけの「限定」ということで決着した。

 以来、娘が泣き暮れている姿を何度も目にした。しかし自らの進路はこれからの自分の人生を大きく左右するのだから泣いていたって何も始まらない、自らが乗り越える以外にないとしか僕は語らなかった。

 やがて、彼女は「彼氏に会えない」と泣くのをやめて、自らの進学のために歩みだした。そして、先日早々に合格が決まった。将来は保育の仕事につきたいという希望のもと、進学が決まった。

 これで晴れて二人とも会えるというものだが、ここはやはり節目につき、あらためて彼氏と会わねばならないと来てもらうことにした。

 そして日曜日。またもやガチガチに緊張した彼氏と今度はうれしそうにしている娘の前に僕ら夫婦は座った。

 「約束どおり、娘を静かに見守ってくれてありがとう。おかげさまでりいなの進路も決まった。これで心おきなく会ってもらえたらいい。君も社会人なんだから、社会の規範のもとで、また二人でいろんなことを考えてお付き合いしてくれればいい。これから、厳しい時代だけど君たち若い人たちに希望を与えていくのが僕の仕事だと思っている。僕もがんばるから、君も仕事と生活、共にがんばって。」と言った。

 ハイッ、ありがとうございます!、と最敬礼の彼氏はなかなか頭をあげようとしない。

 と、そこへ僕の母が玄関の靴を両手に履いてリビングに入ってきた。重度の認知症、アルツハイマーでほとんど何を言ってもわからないんだけど、「あ、おばあちゃんごめんね、靴はむこうね!」と家族がとりなした。頭を下げていた彼氏とりいなが笑いをこらえているのがわかった。

 玄関まで彼氏を見送り、握手して別れる。

 夜娘から報告を受けたヒロコから、「お父さん、あの彼氏、まぶちすみおに握手してもらったって喜んでたらしいよ」と言われた。そっかー、家ん中じゃちっともありがたがられないけどなー、僕の握手なんて。

 加えて「おばあちゃんが入ってきて、あまりにあなたにそっくりで笑いそうになったんだって」

 それって、顔だよね?、手に靴履いてるってことじゃぁないよね。ま、我が家のすべても見てもらわないと。

 でも、ふと自分の高校時代のことを振り返って考えるけど、そんな「けじめ」つけろなんてこと日常茶飯事のように言われる家の娘と付き合うなんて、とてもじゃないけど僕は無理。

 「りいなもエライ家に生まれたもんだ」とつぶやいていると、「アンタよアンタ!」とヒロコから。

 おっしゃるとおり。

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